第445話 長い依頼を終えて
ようやくクサバでの依頼を終えて、キリーとマオはスランへ戻る事となった。
最初はここまで長引くとは思っていなかったので、2人してようやく安堵の表情を見せていた。
「はあ、ずいぶんと掛かってしまいましたね」
「ええ、まったくですわ」
マオもすっかり疲れているのか、帰りはキリーのエアレ・ボーデに乗っての移動だった。
「ホビィたちも寂しがっているでしょうから、戻ったらたっぷり構ってあげませんとね」
「そうですわね。それと、これだけ珍しい素材があれば、キャップとビシュも喜ぶでしょうね」
2人は自分たちの眷属たちの事を考えていた。特に寂しがり屋のホビィの事は気にかかるものである。
キャップとビシュは、変異種ブラッディキャップの2人である。今はスランの中で魔道具屋を開いている。元々は残虐な魔物だった2人だが、キリーたちの眷属となった事でかなり穏やかな性格になっている。また、なかなか手先の器用な魔物だった事もあってか、工房を開いているのだ。今は素材と魔石を持ち込めば魔道具を作ってくれるくらいにまで、その腕前を上げていた。
なぜこの2人の話題が出ているかというと、キリーとマオは今回討伐したサンドスコーピオンとデザートリザードの変異種の素材を一部持ち帰っているからだ。おそらくはキャップとビシュの2人は腰を抜かせつつも喜んでくれると思っているわけである。
いろいろな事を考えつつ、エアレ・ボーデを快調に飛ばしながら、キリーとマオはスランへと戻っていったのだった。
クサバを発ってからたったの3日でスランへと戻ってしまったキリーたち。とりあえずは外れにある自分たちの家へと戻る。
「ただいま戻りました、師匠」
玄関を開けて声を掛けるキリー。すると、中からではなく、外から駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
「ご主人様ーっ!」
言わずもがな、ホビィだった。庭でいつもの通り畑作業をしていたのだが、キリーのにおいを嗅ぎつけて走ってきたのである。
「ホビィ、元気にしてましたか?」
勢いよく抱きつかれて地面に倒れ込んだキリーだが、その事は気にする事なく、ホビィの事を気に掛けていた。
「うう、寂しかったのです……」
頬ずりをやめたホビィは、うるうるとした瞳でキリーを見る。その瞳からは、本当に寂しかった様子が伝わってくる。
「すみませんね。思った以上に依頼が長引いてしまいました。まさか、1つ済ませようとしたら次から次へと連鎖してしまうとは思いませんでしたよ」
「ほほう、それはぜひとも話を聞かせてもらいたいものだな」
ホビィに弁解していると、そこへヴァルラが現れた。
「師匠!」
「ヴァルラ様、ただいま戻りましたわ」
「うむ、無事でなによりだ。キリー、マオ、とりあえずお風呂に入ってきなさい。すぐに食事の支度もしようじゃないか」
ヴァルラはそう言うと、家の中へと引っ込んでいった。実に淡白な反応である。
「ヴァルラ様って、本当に感情を簡単に表には出しませんのね」
「まあいいじゃないですか。とりあえずお風呂にしましょうよ、マオさん」
とりあえずホビィを引っぺがして、キリーは立ち上がる。
「ホビィ、お土産がありますので、楽しみにしていて下さいね」
「おお、お肉なのです?」
「ふふっ、相変わらず食いしん坊ですね、ホビィは」
目を輝かせて肉を要求するホビィに、キリーはおかしそうに笑うのだった。
久しぶりの自宅でゆっくり汗を流したキリーとマオは、服を着替えて食堂へと向かう。そこにはすでに料理を用意し終えてヴァルラが待っていた。ちなみにホビィもちゃんと座っている。
「そういえば、ラピッドとトゥツは相変わらず商業ギルドですか?」
「うむ、その通りだ。フェレスとは特に取引が多いからな。引っ張りだこさ」
ラピッドとトゥツはキッキングマスターというウサギ系の魔物の最上位とも言える魔物だ。戦闘能力も高く、足も速いとあって、商業ギルドからかなり重宝されているようなのだ。おかげで、キリーとマオの眷属でありながらも、ほとんど家に居ないという状態になっていた。
「まあそれはともかくとして、ずいぶんと長かったようだが、話をしてもらっても構わんかな?」
「あっ、もちろんですよ」
ヴァルラから少し鋭い視線を向けられて、キリーは驚きながらも冷静に言葉を返す。そして、今回の商会の護衛から始まった一連の依頼について、事細かに説明したのだった。
それを聞いていたヴァルラの表情が段々と歪んでいく。長い時を生きてきたヴァルラですらこんな反応をするくらいに、今回の依頼の最中に起きた事は予想をはるかに超えたものだったというわけである。
「ふむ、情報量が多すぎるんで、少々整理のために時間を貰うぞ」
「ええ、構いませんよ、師匠。僕たちだってなんて言ったらいいのか分かりませんから」
そんなわけで、ヴァルラが情報整理をしている間、キリーたちはもぐもぐと夕食を食べ進めていったのだった。
結局、ヴァルラが再び頭を上げた頃には、すっかり食卓が空になっていたのだった。そのくらいに今回の事は驚きの連続だったのである。
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