第126話 有名人も大変だ

 その日からスランの街は大騒ぎになった。それというのも、ついに街から金級冒険者が誕生したからである。しかも、まだ幼い少女が2人とあって、なんともお祭りムード全開となっていた。

 キリーとマオの2人はどこに行っても声を掛けられる人気っぷりで、金級の2人という事でゴールデンコンビと呼ばれるようになっていた。

「……とても恥ずかしいですね」

「……思った以上に、そうですわね」

 2人とも顔を赤くして寄り添いながら歩くはめになっていた。一応冒険者ギルドと商業ギルド、それに領主まで加わって迷惑をかけると街から追い出すというような通達が出たので、そこまで過激なファンは出てきていないようである。何にしても街一番の有名人となってしまった。

 それにしても、領主やギルドまでそのような通達を出すのにも理由はある。キリーとマオの2人だけでも相当の戦力ではあるが、その後ろに居るヴァルラの存在も大きかった。街のポーションの半分とまではいかないが、それなりの量のポーションがヴァルラの納品によって賄われている。しかも品質はかなり良いので想像をはるかに超える損害が出かねないわけなのだ。つまりは死活問題である。

「2人はすっかり注目の人になってしまったようだな」

 討伐依頼をこなして帰ってきたキリーとマオに、ヴァルラが声を掛ける。

「ええ、まったくですわ。見えなくなるまでずっと視線を感じましたもの」

 マオはずいぶんと不快に思っているようである。目立ってしまったが故の過剰な注目度である。いくら領主たちが釘を刺したとはいえ、しばらくの間はこういう事が続くと思われる。

「しばらくは我慢ですかね……」

 キリーもちょっと参っているようだった。

「うーん、キリーの言う通りだが、これはしばらくうちに引きこもった方がよいな」

 ヴァルラも疲れ気味の弟子たちを見て、困っているようだった。さすがにこれ以上弟子を好奇の目にさらすわけにもいかないので、しばらくは家に留まらせる事にしたのだ。なにせヴァルラの家はスランの街の郊外で、住宅地からかなり離れているし、近くに門があるわけでもない。そうそう人の来ない場所なので他人との距離を取るには悪くない場所なのである。

 キリーは常にメイド服、マオも黒い翼を持っているだけに、そもそも目立っていた。しかし、それに加えて最年少の金級冒険者という肩書までついてしまったので、過剰な注目度を集めてしまっていたのだ。それが今回の事態というわけである。本当にもてはやす時の人の行動とは異常なものである。2人にとってはそれが恐怖に映ったようだった。ドラゴンとさえ戦った2人を怯えさせるとは、一般人とはやはり恐ろしいもののようである。

 というわけで、しばらくの間、外出は基本的にヴァルラだけが行う事になった。キリーとマオはホビィと一緒に鍛錬や庭いじり、後はポーション作製といった感じである。落ち着くまではこのパターンであり、家の周りには一応侵入者除けの防護壁が展開してある。

 キリーとマオの鍛錬は、それだけで注目の的だ。この日も家の周りには何人か来ていたようだ。本当に暇人が居るものである。

「マオさん」

「分かっていますわ、キリーさん」

 家の中に居るせいか、2人ともかなり落ち着いている。覗きが居ると分かれば、ここはマオの出番である。

「シャ・スフェア」

 先日発見された闇の玉を生み出す魔法だ。この魔法を覗きに対して使う。覗きをしている連中の頭をすっぽりと覆う闇の玉が生成され、いきなり視界を遮られた覗き魔たちが慌てふためいている。一応、ヴァルラの家からある程度離れれば解除されるように設定しているが、その間の慌てようといったらそれは愉快なものである。

「まったく懲りませんわね」

「また来てますね」

 だが、この魔法を食らいに来る常連が現れた。まったく常識外れの変態が居たものである。そのせいもあってか、キリーとマオの2人は新たな魔法を生み出していた。

 その変態さんの前まで、ふよふよと小さな魔法の玉が飛んでいく。そして、その目の前まで到達すると、

「うおっ、まぶしっ!」

 急激に大きな光の玉へと変化して、目潰しをしたのである。失明寸前の強烈な光が覗きの常連である変態を襲う。

「目がぁ……、目がぁっ!!」

 両目を押さえてその場でのたうち回る変態。こんな辺鄙な場所まで来て遊んでないで仕事して下さい。その様子を見て、キリーとマオは大層ご立腹。ホビィはげらげらと笑い転げていた。

 その流れで、キリーとマオがその怒った顔で残りの変態を睨むと、

「ありがとうございます!」

 と理解不能なお礼を言い残して走り去っていった。まったく訳が分からない。

 この事をヴァルラに話すが、さすがのヴァルラもこれは理解不能だったようだ。

 こんなやり取りが数日も続けば、ようやく家の周りは静かになった。そんな時に領主の私兵が訪れ、キリーとマオにコテンパンにされた変態からの訴えで、その変態に罰則を科した事が報告された。領主たちの命令を破ったんだから仕方ないね。

 そんな事もあって、ようやくキリーたちの周りには元の平穏な日々が戻ってきたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る