第125話 報告を忘れるなんてとんでもない

 ドラゴンの鱗を加工して満足したヴァルラたちだったが、翌日うっかり忘れていた事の報告に出向く事にした。あれから一体何日経ったと思っているのだろうか。

 冒険者ギルドに寄ってから、ヴァルラたちはスランの街の領主マニエスの館を訪れていた。

「どうしたんだね、ヴァルラ殿」

 マニエスが執務室で立ち上がって出迎える。

「いやはや、すまないが大切な事を忘れていたのだ。急にすまないね」

 ヴァルラの方も謝罪を入れる。

「申し訳ございません。フェレスの街での事を報告するのを忘れていました。指名依頼でしたのに」

「私もすっかり頭から抜け落ちてしまっていましたわ。領主の娘としては大失態ですわよ。本当に申し訳ございませんわ」

 続いてキリーとマオも謝罪をしている。

「ああ、その事でしたか。それでしたら大まかな事はフェレスからの使者が来て報告は受けているよ。内容を聞く限りだと、君たちが報告を忘れてしまうのも無理はないと思うよ」

 マニエスは笑ってフォローを入れていた。

「それにしても、大活躍だったようだね、2人とも」

「フェレスに出向いていたマスールが戻ってきて、興奮したように話していたからな。聞いたこっちは最初何を言ってるんだと疑ったレベルだったぞ」

 マニエスもそうだが、コターンも反応に困ったようである。話す顔が呆れ顔になっていた。

「まあそんなわけだ。とりあえず君たち2人からも話が聞きたい。いいだろうか」

「はい、承知致しました」

 というわけで、キリーとマオは、マニエスとコターンにフェレスの街の近くで起きた事を全部話した。大の男2人の反応が面白いくらいに変わっていき、話が終わる頃には疲れ切ったような顔をしていた。

「はあ……、ドラゴンの事も聞いてはいたが、当事者から聞くとより一層深刻だった事が分かるな。よく無事だったものだよ」

「いやはや、まったくそうですな。こんな事を今まで報告せずに忘れていたというのが信じられん」

 マニエスとコターンが揃って盛大なため息を吐いていた。

「わ、忘れていた事は本当に謝罪致しますわ。ですが、その時に体験した事は、とても忘れられるような事ではございません」

 慌てふためくマオ。本当に表情がよく変わる悪魔である。悪魔のイメージからすると、これだけ喜怒哀楽がはっきりしているのも珍しいだろう。

「で、2人がドラゴンからもらったという武器を見せてもらってもいいかな?」

 マニエスからこう言われた2人は、おとなしく武器を机の上に差し出した。

 キリーの武器はドラゴンの牙からできたショートソードと鱗からできたダガー、マオの武器はドラゴンの爪からできた一層の鉤爪である。

「これはすごいな。見た目の光沢からして普通の武器とは違うぞ」

 さすが冒険者ギルドのマスターであるコターンである。そして、2人に確認を取ってから武器を手に取ってみている。

 ……どれもそうだが、驚くほど軽かった。それでいて軽く叩けばコツコツとしっかりした音が聞こえる。強度もしっかりとあるようである。本当に見れば見るほど不思議な武器だ。

「すまなかったな。冒険者のはしくれとして、いい武器も見せてもらった。感謝する」

 コターンはそう言って、キリーとマオにそれぞれの武器を返した。キリーもマオもそれを収納魔法へと仕舞った。というか、知らない間にマオも収納魔法を身に付けていたようである。マオも本当に規格外な悪魔だ。

 キリーとマオが武器を仕舞い込むのを確認したマニエスとコターンは、示し合わせるようにお互いを見て頷き合う。そして、キリーとマオをしっかりと見て口を開く。

「今回のフェレスの街での活躍、およびドラゴン撃退の褒美を与えよう」

 どうやら褒賞の話のようである。ヴァルラは予想できていたので静かに見守っている。それにしてもホビィは置いてきて正解だったようだ。居たら確実に大騒ぎしていた。

 それはともかくとして、マニエスの言葉にキリーとマオがごくりと息を飲む。

「キリーとマオの2人を金級冒険者に昇格。また褒賞金として金貨500枚ずつを進呈する」

「ええーっ?!」

 キリーとマオは褒賞の大きさに驚きの声を上げた。後ろに居るヴァルラは冷静なままだ。予想の範疇過ぎたからである。

「さすがにその枚数は貰い過ぎです。ただでさえポーションだけでも結構稼いでますし、その金貨は街のために使って下さい!」

「そ、そうですわ。それに、褒賞金ならフェレスの街、つまりはお父様たちが出すべきですから受け取れませんわ!」

 キリーとマオは混乱しながらも、冒険者の等級にはまったく触れず、褒賞金の辞退ばかりを口にしていた。やっぱり金額が大きかったのかも知れない。2人揃って怯え過ぎである。

 この2人の様子に、マニエスとコターンは大口を開けて笑った。あまりに予想通りの反応だからだ。あまりの大笑いをされたがために、2人はぽかーんと驚いて動きを止める。

「いや、すまない。あまりに予想していた事を言うものだから、ついね」

「まったくだ。本当に謙虚ないい子たちだよ。がっはっはっはっ!」

「だからね、褒賞金の辞退は確かに受け取ったが、形としては一度受け取ってもらった上で街に寄付したという形にさせてもらう。こちらにも体裁というものがあるからね」

「うむ。それじゃこれで話は済んだな。2人はこれから冒険者ギルドに行って、昇級手続きをしようじゃないか」

 まんまとマニエスとコターンにしてやられた感じだったが、フェレスでの出来事の報告は無事に終えたキリーとマオ。この後冒険者ギルドへ向かった2人は、揃って金級冒険者へと昇級したのであった。

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