天の申し子と悪魔の娘
第124話 ドラゴンの鱗
フェレスの街の一件からはまたしばらく平和なものだった。
キリーとマオはホビィも交えて相変わらずの特訓。ヴァルラは自室にこもってドラゴンの鱗の分析をしている。
「ふむ。現在知られているどの素材とも全く違うな。さすがは神の使いとして使役されているだけの事はある」
ヴァルラはまったく理解不能な鱗に、ずっと悪戦苦闘のようである。鑑定魔法にかけてもまったく情報が読み取れないし、軽さや耐久性、靭性、手触りなど、今までのどの材質と比較しても共通点が見出せなかったのだ。
キリーとマオの貰った武器も見せてもらっている。これもドラゴンの牙や鱗、そして爪からできており、軽い上に強度や鋭さがある。これならキリーやマオが扱えば、それこそ筋肉だるまが振るう斧に匹敵する鋭い攻撃が可能になるというものだ。
「せめて性質さえ読み取れれば加工法が思いつくのだが、うーむ、これはなかなかに難敵だな」
どうにも埒が明かず、ヴァルラは鱗の事は一度諦める事にした。行き詰った時ほど気分転換である。
庭に出ると、キリーとマオがホビィと一緒に模擬戦をしているようだった。魔法の才はあるものの、接近戦ともなると不安のある2人である。となれば、ホビィはちょうどいい相手というわけだ。
キリーとマオは、真剣に鍛錬に取り組んでいる。ドラゴンとの戦いはいい刺激になったようだ。これからも悪魔の住むフェレスを狙って攻撃を仕掛けるというのなら、2人はとことん抗戦するつもりなのだ。相手の油断があったとはいえ、ドラゴン相手であれだけ余裕がなかったのだ。あれ以上の魔物に攻められたらひとたまりもないのだから、2人が真剣になるのは当然なのである。
「キリー、マオ、ホビィ、一旦息を入れるかい?」
ヴァルラが声を掛ける。
「はい、師匠」
「そうですわね。お腹が空きましたわ」
「ご飯なのです」
3人は動きを止めて、素直に応じていた。まっすぐ素直に成長していく弟子たちに、ヴァルラはとても感心している。
「ところでキリー」
「何でしょうか、師匠」
ヴァルラから急に話を振られたキリーは真剣な表情をする。
「ドラゴンの鱗を鑑定してくれぬか。私の鑑定魔法では名前しか分からなんだのでな」
「……、分かりました」
ヴァルラから差し出された鱗を、キリーが鑑定魔法にかける。
【エンシェントドラゴンの鱗】
『神の使いとされる古代龍の鱗。金属と同じような加工方法で手を加える事ができるが、成功率は低い。魔法との親和性が高いので、錬金術による加工を推奨する。加工せずとも魔法系への防御力を上げる装飾品となる』
「という事らしいです」
「ほぉ、そのものでも効力はあるのか」
ヴァルラは鱗を凝視していた。
「しかし、私に鑑定できないというのは悔しいものだな。しかも私では【ドラゴンの鱗】としか表示されなかったからな」
「そうなんですね。どうやら、限られた人だけに詳細が分かるようになっているみたいです。僕は天の申し子だから見られたようです」
「ふーむ、つまりは明らかに次元の違う代物というわけか。加工せずとも効力があるというのなら、そのまま持っておいた方がよさそうだな」
キリーによる鑑定結果を受けて、ヴァルラはそう結論付けた。下手に加工してごみにしてしまうよりはマシだからである。
「ただ、大きすぎるから、分割する必要があるな。そこは大丈夫なのか?」
「大丈夫みたいですね。どうしましょうか」
「ペンダントくらいの大きさが好ましい。だが、全部をそうしなくてもよいぞ。大きな鱗の形を整える際の端材で十分だろう」
「分かりました。じゃあこの辺ですかね」
ヴァルラとキリーは、とがっている部分を上にして鱗を置く。
「ジ・エアレ・ラーサ!」
キリーが使ったのは風の槍を生み出す魔法だった。それは的確に鱗を尖りを削り取った。削り取られた部分を更に細かく加工していき、金属の台座に埋め込んでドラゴンの鱗を使ったペンダントが完成したのである。貴重な物ゆえに極力削ぎ落とす事なく全部使おうとしてでき上った、なんとも苦心の一品である。
よく見ると、ペンダントは4つある。どうやら自分たちの分を作ったようだった。
そのうちの1つをキリーが身に付ける。鱗の放つ深緑の光が、白黒のメイド服にも映えていた。
「どうですか、師匠」
「うむ、似合っているぞ、キリー」
くるりと一回転するキリーに、親バカ炸裂のヴァルラである。
「何か楽しそうなのです」
「あー、キリーさん。何を身に着けてるんですの?!」
ヴァルラとキリーがペンダントを作っている間、外で畑いじりをしていたホビィとマオが戻ってきて声を上げている。マオは目ざとくペンダントを見つけている。
「おお、ちょうどよかった。2人にも渡そうと思ったところだったんだ。こっちへおいで」
一瞬顔を見合わせた2人だったが、素直にヴァルラに近寄る。そして、手渡されたペンダントを見る。
「うわぁ、きれいですわ」
「魔物っぽい感じがするのです。でも、ホビィとは違う感じがするのです」
「うむ、先日フェレスの街の近くに現れたドラゴンの鱗を使ったペンダントだよ。キリーの鑑定では魔法への防御効果が得られるらしい。精神操作などを受けにくくするという事だろうな」
まじまじとペンダントを見る2人に、ヴァルラが説明をする。
「そうなのですね。大切にしますわ!」
「よく分からないけど、ホビィも大事にするのです」
なんだかんだでとても喜んでいるようだった。
こうしてまた絆の深まるヴァルラ一家なのであった。
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