第114話 光と闇が合わさって

 キリーたちがやって来たのは、街道近くの歪みである。森の歪みとは街道を挟んだ反対側であり、ここを先に潰す事で街道の危険を減らすのが狙いだ。街道での挟撃は避けなければならない。

「……なんとも不思議な感じですね」

「そうですわね。不気味でありながらも神秘的な、なんともこう、表現のしづらい感じですわね」

 2人の目の前にあるのは、確かに周りの景色が歪んで見える歪みだ。漆黒に青色の混ざった不思議な色をしている。

 キリーとマオ以外にも複数名の調査にあたっている人物が居るが、その中に見慣れた姿を見つける。

「あれ、マスールさんじゃないですか」

「げっ、嬢ちゃんか」

 筋肉だるまことマスールだった。性格さえよければ頼れる男であるマスールは、なんだかんだでまじめに勤しんでいた事で自粛期間が短縮された。その際に銀級まで復活する事ができていたようである。

「最近スランで見かけないと思ったら、フェレスに来られてたんですね」

 キリーがしれっとした顔でマスールに話し掛けている。周りはその光景に驚いていたし、マスールの方がたじたじになっていてさらに驚いていた。

「ま、まあな。嬢ちゃんたちのおかげで腕も上がってきたし、少し強い魔物と戦ってみたくなったんだ。レッドキャップはまだつらいが、ハイウルフなら何とかなるぞ」

 マスールは強がって見せている。

「まあ、ハイウルフを倒せるんですのね。ウルフよりかなり動きは素早くて厄介だと聞いていますわ」

「あいつらは速いだけだ。攻撃がウルフと変わらないから落ち着けば対処できる」

 マスールの説明にさすがですねとキリーは感心していた。

「しかし、嬢ちゃんらも歪みの調査なのか?」

「はい、お父様から直々に指名依頼を受けましたの」

「お父様って、翼の嬢ちゃんはフェレスの領主様の娘なのかい?」

「そうですわ。私はマオ・ハトゥールと申しますの。今はヴァルラ様の下で修業をしていますのよ」

 マオが名乗ると、マスールはもとより、周りも騒がしくなった。領主の娘が同行しているとあれば、何かあればすぐに領主に伝わるという事である。戦慄しないわけがないのだ。

「ところで、これの調査はどこまで進んでますの?」

 マオが先に来ていた兵士や冒険者に尋ねる。その話では、どんな物理攻撃も魔法も受け付けないようで、触ろうとしてもすり抜けてしまうという事らしい。つまり、歪みは自身に対して一切の干渉を受け付けないという事だ。というわけで、なす術なく手をこまねいているのが現状のようだった。

「シャ・スフェア!」

 何を思ったか、マオが歪みに対して魔法を使う。闇の玉を生み出して歪みを覆ってしまう作戦である。

 見た事のない魔法に、その場の全員が驚いているが、とりあえず今はそれには構わない。やれる事を試してみるだけだ。

 だが、これに対しても歪みは何の反応も示さなかった。うんともすんとも言わず、闇の玉が浮き続けただけだった。

「うーん、ダメですわね」

「では、今度は僕がやってみます」

 マオが闇の玉を消すと、今度はキリーが歪みに対して魔法を使う。

「リヒテ・ラーサ!」

 マオが使う闇の剣とは対照的に、キリーは光の槍を生み出して歪みにぶつけてみる。しかし、これも歪みに刺さる事なくそのまま地面へと突き刺さった。本当に何も通じないのだろうか。キリーは魔力の剣を生み出して斬りかかってみるが、これもやっぱり当たりながらも手応えなく空振りに終わった。

「キリーさん」

「何でしょうか、マオさん」

 しばらく考えていたマオが、キリーに声を掛けてくる。

「光と闇の魔法を同時にぶつけてみませんか?」

「光と闇を同時に……、ですか?」

 マオの提案に、キリーは首を傾げた。

「ええ。後ろの方々に確認を取ったところ、私たちの魔法は違った反応を示したそうなのですわ。他の方の魔法は無反応だったり、通り抜けたりではなく、吸収されてしまったそうなのです」

 マオは、キリーがいろいろ試している間に、兵士や冒険者から話を聞いていたようだった。その情報によれば、今言ったような内容の事象が認められたとの事である。光と闇は希少過ぎて、使い手がそう居ないので確認できなかったのだ。

「なるほど、試してみる価値はありますね」

 キリーが納得したところで、マオとキリーが同時に構えを取る。

「シャ・ソルデ!」

「リヒテ・ラーサ!」

 マオが闇の剣、キリーが光の槍を放つ。そして、同時に歪みに命中するように調節した。すると、バチバチという音を立てて、歪みに衝撃が走ったのである。

「おおっ!」

 兵士や冒険者たちから声が上がる。

 しかし、初級魔法ではわずかな衝撃が走っただけで、歪みの状態に変化はなかった。

「キリーさん、中級は使えまして?」

「使えますよ。マオさんに教えている以上、僕がさぼるわけにはいきませんから」

 マオの質問にキリーが答えると、二人は向かい合って小さく頷いた。そして、再び構えを取る。

「ジ・シャ・ソルデ!」

「ジ・リヒテ・ラーサ!」

 2人から放たれた闇の剣の二連撃と光の槍の二連撃が、歪みへと同時に命中する。バチバチバチとさっきよりも大きな衝撃が走る。

 やがてボンと大きな音がしたかと思えば、その場にあったはずの歪みが跡形もなく消え去っていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る