第115話 厄介な歪み
マオから放たれた闇の剣と、キリーから放たれた光の槍が歪みにぶつかり、その衝撃でその場の歪みは消滅した。その様子を見ていた兵士や冒険者たちから歓声が上がる。
「すげえ、俺たちがどうする事も出来なかった歪みが消えたぞ」
だが、そうやって喜んでいたのも束の間の話だった。
ずんと大きな衝撃が走ったかと思えば、残りの歪みのある方向から魔力波が流れてきたのだ。それと同時に、兵士が一人走ってきた。
「た、大変だ!」
「どうした!」
「急に歪みに衝撃が走って、その規模が大きくなったんだ」
「何だと?!」
兵士の報告に驚いた面々は、その場に数名の兵士を残して、街道の反対側の歪みへと駆けつける。すると、そこには先程の歪みとは比べ物にならないくらいの規模に膨らんだ歪みがあった。
「さっき消えた向こうの歪みくらいのでかさだったのに、なんでこんなに大きくなったんだ?!」
兵士の一人が首を傾げている。
「分からん。でも、さっき歪みが震えたかと思ったら急に大きくなったんだ」
兵士の証言から、キリーとマオは同時にある結論に達した。
「僕たちが歪みを消したから、かな?」
「それしかありませんわ。おそらく3つの歪みが連動しているのですわ」
「それはどういう事だ?」
キリーとマオの話に、報告に来た兵士が尋ねる。
「歪みを発生させている力の元が1つという事ですわよ。その1つが壊されたので、その分の力が残りの2つに分散して増幅されたという感じですわね」
つまり、3つの出口の1つが潰された事で、残り2つからの出力が増えたという事である。
「となれば、これを潰したところで、残るもう一つの歪みが大きく膨れ上がるという事になりますね」
「仮定をそのまま当てはめれば、そういう事になりますわね」
キリーとマオの会話についていけない兵士たち。
「じゃあ、一体どうすればいいのでしょうか」
その焦燥から2人に問い掛ける。
「取る方法は2つ。残りの歪みを同時に潰すか、このまま歪みを広げてあふれた魔物を討伐するか、ですわ」
マオの結論に、キリーも頷いた。
「となれば、どう考えても後者の方がいいように思いますぞ。お二人の中級魔法を同時にぶつけて、ようやく歪みが消せたんですから」
兵士は冷静にそう答える。
確かにその通りである。しかも、さっきより大きくなった歪みは、おそらく中級魔法では消す事ができない。もっと強力な魔法が必要になるはずである。少なくとも上級魔法が必要であり、しかも使い手が希少な光と闇の魔法となれば、もう打つ手はないのである。
念のため、マオとキリーは同時に歪みに対して構える。
「ジ・シャ・ソルデ!」
「ジ・リヒテ・ラーサ!」
先程の歪みを消した中級の闇と光の魔法の同時照射である。だが、予想通り、歪みに衝撃が走るものの、消滅させるまでには至らなかった。
「やはりダメでしたわね」
「そうみたいですね。こうなれば一度、ゴルベ様にご報告を入れた方がよいかと思います」
というわけで、2人の意見に従い、一部の兵は2人と一緒に一度フェレスへと戻る事となった。
「ただいま戻りましたわ、お父様」
「おお、マオ、無事だったか」
領主邸に戻ったマオが父親に挨拶をすると、父親がもろ手を広げて待ち構える。ところが、それをマオがスルーしてしまったがために、ゴルベは悲しそうな顔をしていた。
「どうなされましたの、お父様」
「い、いや、何でもないんだ……」
ゴルベはとぼとぼとマオと一緒に執務室へと歩いていく。この様子を見ていたキリーは首を傾げていたが、一緒に戻って来た兵士は同情の視線を送っていた。
それはそれとして、ゴルベの執務室に集まった面々は、歪みについての報告を行う。これを聞いたゴルベはとても険しい表情をしていた。
「……なるほど、光と闇の魔法を同時にぶつける事で歪みは消えるが、別々に消していくと歪みが拡大する、そういうわけなのだな?」
ゴルベはあっさりと状況を理解した。
「そうですね。森の方の歪みもおそらく拡大しているはずですし、中級魔法で消せなかった以上、上級もしくは最上級の魔法でないと、消す事は不可能だと思います」
ゴルベが確認を取ると、キリーはそのように答えた。
「闇魔法自体は我がハトゥールの一族が使えるが、問題は光魔法だ。この中で使えるのは……」
ゴルベの言葉に手が上がったのは、キリーとマオの2人だけだった。
「とは言いましても、私が使えるのは中級までですわ」
「僕の方は、上級は使える事は使えますが、まだ不安定ですね」
2人の言葉に、歪みの段階で消す事は不可能だという結論が出てしまった。そうなると、歪みが魔物となって襲い掛かるのを待つしかなくなった。
だが、ここにも懸念はある。
歪みを1個消した時点で残り2つが拡大したのと同様に、歪みが魔物へと変化するタイミングがずれると、残った方がより強力になる可能性がある。つまり、弱い状態で終わらせようとするなら、2つ同時に魔物が発生するように仕向けなければならないのである。
実に厄介で面倒な状況が、フェレスの街に圧し掛かろうとしているのだった。この危機をどうやって乗り切るのか。キリーたちは頭を悩ませた。
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