第113話 領主の葛藤
「お父様、ただいま戻りましたわ」
「ゴルベ様、お久しぶりでござます」
領主邸へ案内されたキリーとマオは、ゴルベに挨拶をする。あまりに早い到着に、ゴルベは驚いた顔をしていた。
「おお、もう来てくれたのか。すまないな、実に急すぎる事で」
「いいえ、街の一大事ですもの。その気になれば世界の果てからでも駆けつけますわ」
ゴルベの言葉に、マオは両手を腰に当ててそう言い切った。
「それよりも、なぜスランの街の僕たちに指名依頼をされたのですか?」
感動の再会を遮るようにキリーはゴルベに尋ねる。それを聞いたゴルベは、咳払いひとつをして返答する。
「今回の一件ではスランにも迷惑は掛かりそうだった感じだったのでな。そこでスランの等級の高い冒険者を派遣してもらう事にしたんだ。2人の事は以前の訪問の時から聞いていたし、今回の指名依頼となったんだ」
実にゴルベは正直だった。
「ただ、ビラロは反対していたがね。妹を危険に遭わせたくないし、天の申し子かも知れないキリーくんの手を借りるのが嫌なのだそうだ」
「兄さんの言いそうな事ですわね」
ゴルベの説明に、マオはビラロの態度が想像できたようである。
「でも、私も今や銀級冒険者ですわ。多少の魔物相手でも負けるつもりはありませんわよ」
マオは冒険者カードを出してドヤってみる。銀で縁取りされたカードを見て、ゴルベは驚いていた。
「本当に銀級なんだな。頑張ったな、マオ」
「はい、お父様。キリーさんと一緒に頑張りましたわ」
マオの言葉にゴルベはキリーを見る。それに対してキリーはにこっと微笑んだだけだった。
「とりあえず今日はゆっくり休むといい。ここまで急いできたのだろう?」
「はい、緊急だという事もあって、キリーさんを背負って風魔法も使って全速力で飛んで参りましたわ」
ゴルベの言葉にマオは正直に答える。その横でキリーはやっぱり黙ったまま首を縦に振っていた。
「詳しい状況はまだ分かっておらん。とにかく休んで万全にしておいてくれ」
「畏まりましたわ、お父様」
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」
そう言って、マオはキリーを連れて自分の部屋へと案内する。長く使っていなかったので汚れている可能性はあるが、マオは気にしていなかった。
そうやって案内されたマオの部屋は、実にきれいに掃除されていた。いつ戻ってきてもいいように手入れを怠らなかったようである。それに安心したマオは、キリーと一緒にお風呂に入ってから食事をすると、一緒に部屋で眠りについた。
「親父、マオが帰ってきたらしいな」
「ビラロか。マオなら確かに帰ってきている。だが、友人と一緒にもう寝たよ。急いで帰ってきたみたいだから、今は寝かせてあげなさい」
兄であるビラロがゴルベに詰め寄っていた。
「あの天の申し子か。なぜそんな奴を家に上げたんだ」
「マオの信用する友人だ。それ以外に理由が要るか?」
すごい剣幕をしているビラロに、ゴルベはまったく動じずに受け答えをする。さすがは父親である。
「あの子は以前会っているしな。その時も思ったが、別に危険な子じゃない。第一、あのマオが慕っているんだからな」
こうゴルベが続けると、ビラロは信じられないといった顔をする。
「お前がどう思うかはもはやどうでもいい話だ。あの子たちはおそらく今回の件ではカギになると思うよ」
ゴルベがこう締めると、ビラロはもういいといった感じで部屋を出ていった。ビラロが出ていった後のゴルベは、やれやれといった感じで椅子にもたれた。
「やはり厳格に育てすぎたかな。父上から聞かされた事のある悪魔の姿にそっくりだ。だが、あの2人が活躍する事になれば、ビラロも認めざるをえなくなるだろうな。そこまで頭が固いとは思いたくないものだ」
ゴルベは警備兵たちからの報告書に目を通す。その報告書によれば、歪みが確認された場所は3か所だった。続々と冒険者がフェレスに集まってきてはいるが、果たして対処し切れるのかは未知数である。歪みが開く前に対処できればいいが、今居る兵士たちや冒険者の攻撃ではびくともしなかったとの報告である。となれば、多少危険ではあるが、魔物が発生してから一斉に叩き潰す方が確実であろう。
……実に頭の痛い話である。
それにしても発生した理由は謎である。また発生した場所も微妙に離れていて、1か所は森の中、残りは森から出た平野部である。しかも、フェレスからさらに西に延びる街道を挟み込むように発生している。こうなると交易にまで影響が出てきてしまい、街としては痛手となってしまう。早急に対策を講じる必要があるのだが、報告通りに梨の礫なのだ。
そこでゴルベが悩んだ上で出した結論はこうだった。
翌朝の事、キリーとマオはゴルベに呼び出された。そこで告げられたのは、
「今日は2人に歪みの調査に加わってもらいたい」
というものだった。つまり、天の申し子であるならあの歪みに対抗できるかもしれないと考えたゆえの作戦である。正直、ゴルベとしては気の進まない作戦だが、もしかしたらという事に賭けたのである。
「分かりました。僕で役に立てるのなら行かせて頂きます」
「私もですわ。領主の娘として何もしないわけには参りませんもの」
キリーとマオの2人は、作戦を了承するのだった。
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