第112話 急な報せ

 マオがスランの街に来てからどのくらい経っただろうか。今日もマオはキリーと一緒に依頼をこなしていた。スラン周辺では一番危険と言われるオークですら、この2人にとってはもう敵ではない。

 討伐依頼に出る時の姿も、キリーは相変わらずのメイド姿。マオの方もドレスに簡単な防具を着けた姿と、可愛くて怖い冒険者コンビとして噂になっていた。

「ジ・リヒテ・ソルデ!」

「グギャアァァッ!」

 光の剣がオークを貫く。気が付けば、マオは光の中級魔法も平気で使えるようになっていた。

「さすがです、マオさん」

「いいえ、キリーさんの教え方がよかったのですわ」

「では、解体して帰りましょうか。ホビィも大喜びですよ」

 オークを慣れた手つきで解体していく2人。キリーもマオも今では銀級冒険者である。

 ホビィは2人にはついて行かなくなったが、その一方で家庭菜園の才能を開花させていた。収穫された野菜は以前からお世話になっている八百屋さんへ持ち込んで、一緒に売っては売り上げを折半して帰っている。まあ、自分の所で採れた野菜の半分はホビィの胃袋行きなのだが。相変わらずお肉は好きだし、食欲も旺盛なのであっという間に収穫した野菜は消えてしまう。

 そういう事もあってか、ホビィは野菜の成長促進の魔法をヴァルラから教わって身に付けていた。食欲ゆえの習得である。元は魔法も使えないホップラビットだというのに、まったく恐ろしい執念である。

 ヴァルラは相変わらず部屋にこもって研究である。ぶらりとあの不思議な食堂に顔を出すが、やはり基本的には研究である。マオを通じて悪魔の事や闇魔法と光魔法の事の研究が進んでおり、いつにも増して寝てないのにつやつやである。寝不足が満足度に負けたのだ。

 そんなある日の事、キリーとマオの元に冒険者ギルドから呼び出しが掛かった。何事かと思って冒険者ギルドに出向いた2人の前に、ギルドマスターのコターンが立ちふさがった。

「すまないな、急に呼び出したりして」

 いきなり謝罪を受けるキリーとマオ。

「フェレスの領主、マオの親父さんから2人に討伐体参加の依頼が来た。詳しくは部屋で話す」

 疑問符が浮かぶキリーとマオだったが、とりあえずコターンの後について、ギルドマスターの部屋へ向かう。部屋に入ったコターンの表情は浮かない。

「どうされたんですか、コターンさん」

 キリーが気になったので声を掛ける。それからもしばらく沈黙が続いたが、ようやくコターンの重い口が開いた。

「どうやらフェレスの近くで大規模な魔物の発生が起きそうになっているらしい。話では周辺を警備する兵が気付いたらしいんだが、魔力の歪みが観測されたそうだ」

「なんですって?!」

 マオが驚いて叫ぶ。

「マオさん、何かご存じなんですか?」

 キリーはマオの反応を見て、慌てて尋ねる。

「ええ。私たち悪魔の間での伝承ですけれど、悪魔は魔力を引き付けやすいと言われていますわ。そのせいで引きつけられた魔力が渦を巻いて、魔物を大量に発生させてしまうという事があるというのです」

 マオによれば、それによって悪魔は壊滅的な被害を受けた事もあるようで、極力散り散りで暮らしていた時期があるそうだ。しかし、祖父の時代から200年以上、そういった事象は起きた事はない。今では完全な迷信とまで言われてる。

「まぁどういう理由にせよ、魔物が大量発生する可能性が高い。スランの銀級で動けるのは2人だけだからな。ぜひとも行ってもらいたい」

「もちろんですわ。お父様たちが危険だというのですから、行かなくどうするというのです」

 コターンの発言に、マオは即答である。自分の出身街なのだから当然の話だ。

「当然僕も行きますよ。マオさんは僕の友人なのですから」

「キリーさん……」

 キリーも行くと言えば、マオは顔が緩んでいた。

「そうか。なら、すぐに向かってくれ。猶予がいくらあるとも分からんからな」

「はいっ!」

 キリーとマオは元気よく返事をすると、外へと飛び出していく。ヴァルラとホビィに簡単にだけ報告をすると、2人は街の外へと移動する。

「キリーさん!」

「何でしょうか、マオさん」

「飛んでいきますわよ!」

 マオはこう言うと、翼を広げた。

「キリーさん、背中に掴まって下さい」

「はい!」

 マオの言葉にキリーは元気よく返事をして、マオの背中におんぶされる。

 キリーを背中におんぶする形になったマオは、風魔法も使って空を飛ぶ。普段は自分一人だけで飛んでいるので魔法の補助は要らないのだが、今回はキリーを背負って飛んでいるので、風魔法で安定性を確保しているのだ。

 自分の故郷の一大事に、マオは全速力で飛んでいく。あまりのスピードに、マオの体力を心配するキリーだったが、マオはそれどころではなかった。なので、キリーはこっそりマオに回復魔法を使って体力を回復させておいた。

 こうして、間に2回野宿を挟んで、キリーとマオはフェレスの街にたどり着いた。

「これはお嬢様。よくお戻りになられました。そちらがキリー様ですね。旦那様からお話はお伺いしております」

 フェレスの門番は2人を出迎えると、控えていた兵に伝える。そして、キリーとマオを馬車に乗せて領主邸まで移動する。

 こうして、キリーとマオは、久しぶりにゴルベと対面する事となった。

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