第107話 驚きは降ってくる

「ふむ……、今日まで様子を見てきた結果、マオには魔法に一番適性があるな。武術は並程度、錬金術は魔法に引きずられてかそこそこ適性がある。どちらかといえば、万能型のようだな」

 その日の夜、キリーとホビィが夕食の支度をしている間、ヴァルラから評価を聞かされるマオ。マオはそれを真剣な表情で聞いていた。

「魔法は闇属性が一番で、続いて光属性といった感じだな」

「そうですか、光魔法の適性が高いというのは、にわかには信じられませんわ」

 ヴァルラの評価に、一点だけ納得のいかないマオ。

「だが、「リヒテ・ソルデ」や「リヒテ・スフェア」の効果を見る限りは、正当な評価だと思うんだがな。普通なら闇と光の相反する属性は、どちらか一方しか使えんのだからな」

「まあ、確かにそうですわね」

 ヴァルラに理由を諭されると、マオは納得するしかなかった。

 そうやって話をしているマオの手元が突然黒く光り出す。

「これは……」

「なんだ、それは?」

「これは転送魔法ですわ。とは言っても身内限定かつ手紙限定のですけれど」

「そんなものがあるのか」

 マオの手元の光に、ヴァルラは興味津々である。

 しばらくマオの手元が光っていたが、その光が収まると、なんとも悪趣味な漆黒の手紙がマオの手の中に現れた。悪魔っぽいったらありゃしない。

「これはお父様からですわね。まったく、普通の人はこんな色の封筒使いませんのに、身内限定だからって本当に気の利かない方ですわ」

 マオは手紙を取り出すと、魔力の爪を作り出して手紙の封を開けた。

「だいぶ使いこなせるようになってきたようだな」

「ええ、おかげさまでかなり慣れましたわ」

 ヴァルラとやり取りしながら、マオは封筒からガサゴソと手紙を取り出す。出てきた手紙は比較的普通の便箋だった。マオは中身を読んでいく。読みながらどんどんとマオの表情が変わっていき、最後には肩まで震わせ始めていた。

「な、なんなんですの!」

 マオは思いっきり叫んだ。

「ど、どうしたんですか?!」

 その叫び声に、料理をしていたキリーが慌てて顔をのぞかせた。

「な、なんでもありませんわ。キリーさんは料理に集中して下さいませ」

 マオは慌ててキリーに対応する。その声に、キリーは「分かりました」と顔を引っ込めた。

 ふぅっとため息を吐いたマオ。そこへヴァルラが改めて確認を行う。

「で、手紙にはなんて書いてあったのかな?」

「仕事の目処がついたので、一度スランの街を訪問します、だそうですわ」

 マオは手紙をぷらぷらさせながら、急な事に反応に困っているようだった。

「それは一大事だな。領主殿に伝えておいた方がよいのではないか?」

「ええ、それはもちろんですわ。通常なら早馬でも出して連絡を寄こすところでしょうが、私が居るからってこんな方法を使うなんて、本当に何を考えていらっしゃるのかしら」

 マオはヴァルラの意見に同意しながら、親の取った方法に憤っていた。

「兄さんとガットはお留守番で、お父様とお母様だけがいらっしゃるようですわ。とはいっても、両親揃って出てくるなんてのは一大事ですわよ」

 その日のマオは、寝るまでずっと頭を悩ませていたのだった。


 翌日、ヴァルラたちは揃って領主邸を訪れた。この日も顔パスで中へと入る事ができた。そして、領主の前に立つと、それぞれに挨拶をする。

「どうしたんだね。実に急な訪問のようだけど」

 マニエスは落ち着いて対応している。それに対して、ヴァルラと確認するように顔を見合わせたマオが一歩前へと歩み出た。

「ご機嫌麗しゅうございます、スラン領主マニエス様」

 マオがカーテシーを取って挨拶をする。

「またずいぶんと改まった挨拶だね」

 マニエスはちょっと予想外だという反応をする。

「本日お伺いさせて頂きましたのは、我が父ゴルベからの伝言を伝えるためでございます」

「なに、伝言だと?!」

「はい。近いうちに母コチカとともにスランを訪問するとの事だそうです。我がハトゥール家もフェレスという街を納める領主でございます。ですので、娘の私がお世話になっている件も含めての挨拶だと思われます」

 マオが伝えた内容に、マニエスはうーんと唸り始めた。

 この世界では領主同士の直接の交流はあまりないのだ。スランの街も北側の街とは行商人を通しての交流になっており、その街の領主とはまったく会った事がないのだ。

 それだというのに、フェレスの街の領主がやって来るのだと言う。しかも相手は悪魔だと分かっているので、なおの事反応に困ったというものなのである。

「……どのくらいで来られるか分かるかな?」

 悩んだ結果、とりあえず一番大事な事を聞いておく。

「翼で飛んでくれば3日間、馬車で来るのならほぼ倍の7日間掛かります」

 マオの返答を聞いて、マニエスはまたしばらく黙り込んで悩んでいた。そして、

「うん、教えてくれてありがとう。できる限りの出迎えはさせて頂くよ。また何か分かったら教えて欲しい」

「畏まりましたわ」

 平然と受け答えするマオとは対照的に、マニエスの顔はすごく胃にきてそうな苦しい顔になっていた。

 どう転ぼうにも、スランの街にとんでもない客が来る事は間違いないのである。マニエスの胃は無事で済むのだろうか。気になるところであった。

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