第106話 普通と化け物

 翌日は快晴だった。こうなると活動はいつものとおりである。

 前日に作ったポーションを持って商業ギルドに向かったヴァルラたちは、ポーションの類を納入する。庭でアレーケ草が簡単に手に入るようになったので、中級ポーションまで量産できる状態になってきてはいた。だが、あまり流通させてしまうと相場をぶっ壊してしまうので、数をかなり抑えて納品している。

「相変らず、ヴァルラさんたちのポーションは品質が高くて助かります。すごいですよ、一番人気なんですから」

 マリカが笑顔で明るく喋っている。

「ですが、こちらのポーションはちょっと扱えませんね。医院などで無料で使うには回せますけれど……」

 マリカが渋った顔で扱うのは、マオが作ったポーションだ。どうにかできた可品質のポーションである。

「ああ、それか。それはマオが初めて作ったポーションだ。どうにかできた最良のものだが、やはりそうなってしまうか」

 ヴァルラがマリカが渋ったポーションについて説明する。最良のものでもかなりの低品質。分かってはいたが、マオはしょぼんと落ち込んだ。

「そうなんですね。初めてであるなら仕方ありませんね。数本とはいえ成功させているなら、まだ優秀な方です。人にもよりますが、普通は100本作って100本ともごみなんて事もざらですからね」

 マリカからの評価はそのようだった。やっぱり最初からかなり成功させていたキリーは異常なのである。ポーション作りは結構繊細な作業なのである。

「でも、ヴァルラさんもあまりマオさんにいろいろさせようとしないで下さい。あれもこれもと手を出していたら、どれも中途半端に育ってしまって器用貧乏になりかねませんよ」

「いやまぁ、そこは気を付けるよ。だが、若いうちにいろいろ経験させておくのは、別に悪い事ではないと思うがね」

「まぁ、それはそうですけれど……。とにかくほどほどにして下さいね?」

「まぁ気を付けるよ」

 ヴァルラに対してこれだけ意見できるマリカ、なかなかな大物である。

 とりあえず無事にポーションの納品を終える。中級ポーションが少し混ざっていたので、いつもより買取価格は上がっていた。

「さて、この後はどうするかな?」

 ヴァルラはキリーたちに問い掛ける。

「僕は冒険者ギルドに行こうと思います。昨日は室内だったので、今日はちょっとうっぷん晴らしでもしたいと思います」

 キリーがなかなかに怖い発言をしてくれる。

「でしたら、私もついて参りますわ。キリーさんから学べるところは学びたいですので」

 マオもマオで前向きな姿勢のようだ。

「ホビィは庭をいじるのです。雨の後は草がよく伸びるのです」

 ホビィは庭いじりがクセになっているので、気になっている様子だ。

「ふむふむ、分かった。キリーとマオは遅くなる前に帰ってくるんだよ」

「分かりました、師匠」

「了解なのですわ」

 そう言って、キリーとマオは冒険者ギルドの方へと向かっていく。

「それじゃ、私たちは適当に買い物をして家に戻るかな」

「はいなのです」

 ヴァルラとホビィは、商店街を適当に見繕って家へと戻っていった。


 さて、キリーとマオが受けたのはウルフの討伐依頼だった。ゴブリンやコボルトに比べても、動きの機敏さは格段に高い相手である。だが、動きが速いだけで攻撃は単調。目で追えるようになればそう手強い相手ではなかった。

「あれがウルフなのですね。実は初めて見るのですわ」

 目の前に居る灰色の獣、それがウルフである。ウルフ自体は灰色種と茶色種の2種類が存在しているが、ほとんど能力に差はない。ただ、その上位の人狼種となると、灰色種の方が能力が高くなる。

 さて、その目の前のウルフだが、数は5体ほどと少数の群れのようだ。ウルフ討伐は時間を掛けずに倒すのが基本である。というのもウルフは体力があるので、消耗戦となると分が悪い。しかも、遠吠えで仲間を呼ぶ事もある。つまりはじり貧なのである。

「では、マオさん」

「はい、キリーさん」

「僕が障壁で周りを囲みますので、慌てず確実に仕留めていきましょう」

「分かりましたわ」

 キリーたちは作戦を確認すると、一気に距離を詰める。気が付いたウルフが襲い掛かって来るが、キリーたちは簡単にその攻撃をいなした。

 攻撃を躱されたウルフは着地をすると、くるりと振り返って再び襲い掛かってくる。だが、二度目はなかった。キリーに襲い掛かった1体は、真っ二つになっていた。よく見るとキリーの手には、魔力で作られた短剣が握られていた。どう見ても長さが足りないのだが、ウルフは真っ二つである。一瞬過ぎて、隣に居たマオは何が起きたのか分からなかった。

「マオさん、気を抜かないで下さい」

 キリーがそう叫ぶのも無理はない。マオにもウルフは向かってきていたのだ。

「危ないですわね!」

 マオも負けじと魔力の爪を出すと、飛び掛かってきたウルフの目にそのまま突き刺した。キャウンと鳴いたウルフは、そのまま力なく地面へと落下した。

 これで残りは3体だ。

 圧倒的な力の差を見せつけられたウルフは逃げ出そうとする。が、キリーの張った障壁に阻まれて逃げられない。

「ごめんなさい。これも弱肉強食なんです」

 ニコッと笑ったキリー。その次の瞬間、ウルフたちは恐怖に沈んだのだった。

 結局、マオの出番はあまりなかったのだった。

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