第103話 取扱注意
話あった翌日、ヴァルラたちは冒険者ギルドにやって来ていた。
「おや、ヴァルラさんたちではないですか。どうされたんですか?」
今日も受付にはカンナが座っていた。いつものように平然と受付の仕事をしている。
「うむ、コターン、ギルドマスターに用事があるんだが、今は居るかな?」
「はい、いらっしゃいますよ」
「そうか、今から部屋に押しかけて大丈夫かな?」
「……? それは大丈夫だと思いますが、一体何用でしょう?」
微妙な圧を放つヴァルラに、カンナはちょっとした違和感を感じているようだ。この受付嬢、意外と勘がよい。
「聞きたいなら、お前さんも一緒に来ればいい。ただちょっと面倒な話なんでな」
「……、分かりました。今回はご案内だけで遠慮しておきます」
ヴァルラがめんどくさい言い回しをしたので、カンナはすぐに何かを察したのか同席を辞退した。
さて、カンナに案内されてコターンの元にやって来たヴァルラたち。
「おう、どうした。何か面倒事か?」
「その通り。これから一緒に領主邸に向かいたいのだが、いいかな?」
ヴァルラの言い分に、コターンは意味が分からんといった顔をする。
「いや、こっちのマオと話していた事なんだが、どうにも手に負えなさそうなんで情報を共有しておきたいと思ったわけなんだ」
ヴァルラがこう続けると、コターンは少し考えて、
「分かった。領主邸にすぐに向かおう」
そう結論を出した。こういう判断の早さは素晴らしいものがある。すぐさまヴァルラたちは、領主邸へと足を運んだ。
領主邸では以前の事があったので、用件を伝えるだけで顔パスになっていた。対応が早すぎる。
「マニエス、すまないな。急な面会に付き合わせてしまって」
「いや、構わないよ。君が意味もなく会いに来ないのは知っているからね」
コターンが申し訳ないと言うと、マニエスはそれを咎める様子もなく実に寛容だった。知り合いだからこそのやり取りなのだろう。
「それにしても、急に会いに来るとはどういう用件なんだい?」
「それは私から話そう」
そう言って出てきたのはヴァルラだった。後ろにはキリー、マオ、ホビィも付き添っている。
「ふむ、ヴァルラ殿の話か。これはまた面倒なものな気がするね」
「どういう意味かは分かりかねるが、察しがよくて助かるね」
ヴァルラとマニエスの間に火花が散る。
「まぁそれはそれとして、こちらのマオと話をしていた内容についてなんだ」
ヴァルラはこう前置きをして、光魔法と闇魔法について、マオと話し合った内容をコターンとマニエスに説明した。2人揃って興味深そうに耳を傾けていた。別に魔法の専門家というわけではないが、ヴァルラから説明される内容に関心を持ったようである。
「属性が正反対なだけで、概念としては同じか」
「まぁ魔法にもよるだろう。光が怪我を治すなら、闇は怪我を悪化させるというようなものもあるようだしな」
ヴァルラがちらりとマオを見る。
「いや、私は怪我を悪化させるような真似はしませんわよ。第一痛いじゃないですか!」
マオが叫んで否定している。例として出されただけだが、そりゃ悪人認定のようなものだから怒るに決まっているのである。
「いや、すまなかったな。なにせ光と闇の魔法を使えるのはマオだけだからな」
「うう、酷いですわ、ヴァルラ様」
マオが涙目で頬を膨らませている。すっかりへそを曲げてしまった模様である。
「いやはや、すまない。お詫びにお昼はうちの料理を振舞わせてもらおう。いつも食べているものと比べてどうかは分からないけれど、腕前は確かだからね」
「まぁ、マオなら間違った事はせんだろうという自信はあるのは確かだな」
マニエスとヴァルラがそれぞれに取り繕う。マオの機嫌はちょっとだけ回復したようだ。
「で、悪いけれどちょっと魔法を使ってもらっても構わないかな?」
「それは構いませんが、どういったものがよろしいでしょうか」
マニエスが要求すると、マオは了承した上で尋ね返した。
「分かりやすいのでいい。そちらに任せよう」
「畏まりましたわ」
要求をのんだマオは、分かりやすいものとして選んだ魔法を披露する。
「リヒテ・スフェア」
マオがこう唱えると、部屋には光の玉が現れた。なんて事はない、明かり取りの魔法である。
「ふむ、実に普通に光の魔法を使っているね」
マニエスはとても冷静だった。
「シャ・スフェア」
続けて使ったのは闇の光を生み出す魔法だった。この魔法はその存在が確認されていない魔法なので、今までの常識からすると何も起こらないはずである。ところが、
「なん……だと?」
マオの左手に、闇の玉が浮かび上がったのだ。右手には光の玉、左手には闇の玉がある。光の玉は光を放ち、闇の玉は光を吸収しているように見える。
「おお、こんな事があるというのか……」
誰の目にも衝撃的な瞬間だった。
「これを合わせると危険としか言いようがありませんので、消しますわ」
マオはそう言って、両方の玉を消滅させた。するとマオの額から汗をだらだらと流れていた。光と闇の魔法の同時行使は、やはり肉体的に消耗してしまうようだ。
「すまなかったな、無理をさせて。領主、マオを椅子に座らせていいかな?」
ヴァルラがそう言うと、マニエスはすぐに許可した。誰の目にもマオが立っているのは無理なのは明らかである。マオはふらふらとしながら椅子に座った。それを気遣って、キリーはすぐにマオに回復魔法を掛けていた。
「これは実に興味深いな。しかし、これはこれで危険な感じもする。公にしない方がいいだろう」
「俺もそう思う。だが、知らないのと知っているのとではかなり違うからな。知らせてくれた事に感謝する」
マニエスもコターンも、ヴァルラの意図を汲んでくれたようである。
「まだまだ不明な事は多いからな。ただ、私自身が光も闇も使えないのが悔しい限りだ。他人に無茶をさせるのは本当に心苦しいぞ」
「いえ、私でお役に立てるのでしたら、協力させて頂きますわ」
「そうですよ、僕だって手伝います」
マオもキリーもやる気十分である。
「ふふっ、私はいい弟子を持ったようだ」
ヴァルラはちょっと感動で涙が出そうになった。
「うむ、いい物を見せてもらったお礼だ。お昼はうちで食べていくといい」
というわけで、この日のお昼は領主邸でごちそうになったヴァルラたちだった。
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