第96話 猫ですかね?

 キリーとマオはすっかり打ち解けて、修行や料理を一緒にする事が増えていった。スランの街の中でも、ホビィも加わってよく揃って買い物に行く事も多く、すっかり美少女もふもふ集団として知名度が確立されていった。まぁ組み合わせは言ってしまえば、お嬢様とメイドとペットのようなものである。

 この3人が人気が出る理由は組み合わせもあるだろうが、優しさと強さを兼ね備えているというのも大きいだろう。困っている人を見かければ手助けはするし、荒くれを見かければあっという間に成敗してしまう。それでいて容姿も可愛いときたら、これで人気が出るなというのは無理な話ではないだろうか。

 そうやって、街を巡ってきて家に戻ったキリーとマオは、今日も特訓に勤しんでいた。キリーも魔法の制御はまだまだ甘く、ヴァルラにはよく怒られている。それを見ているマオも、まだまだだと感じて特訓に打ち込んでいく。

 ところが、キリーは確かに魔法の制御は甘いが、そのレベルはすでに上位の魔法使いのレベルに達している。普通の魔法使いは魔力で剣を作ったりできないのだから。

 このキリーが生成する魔力による短剣は、マオもついに練習を始めていた。しかし、マオは剣への適性が無いのか魔力剣を作る事はできなかった。

「マオさんは剣はダメみたいですね」

「おかしいですわよ。キリーさんと同じようにしているのにできないだなんて」

 いくら頑張っても剣の形すら作れない事に、マオは焦っていた。

「でしたら、剣以外の武器を試してみましょう。槍とか鎌とか鞭とか弓矢とか、ひとくちに武器といってもたくさんありますし」

 というわけで、キリーが別の切り口を提案する。

「でも、それって近距離では使えない武器ばかりでは?」

 キリーが例を挙げた武器は、確かにリーチが長いなど、扱いが特殊な武器ばかりである。

「心配要りませんよ、生成するタイミングは武器の種類に関係ありませんから」

 キリー曰く、武器を作る際に相手に柄部分をぶつけたりとか、変わった使い方ができるらしい。

「弓も材質によっては矢を射る以外に直接殴れますしね」

「は、はぁ……」

 真顔で説明するキリーに、マオはどうにもついて行けそうになかった。

「とりあえず、マオさん」

「は、はい」

「特定の武器を思い浮かべるんじゃなくて、自分に合った武器は何か考えるようにしながら生成してみてはどうでしょうか」

「そういう事ができますの?」

 キリーの提案にマオは驚いた。

「はい、最初はどうしても一番身近な武器として剣を思い浮かべますが、うまくいかなかった時は自分の魔力に問い掛けるようにするんだそうです」

「なるほど、分かりましたわ」

 というわけで、マオは改めて、武器生成の魔法を試してみる。しばらくすると、マオの魔力がどんどんとある形へと変化していく。そしてでき上がったのは、

「これは、爪のようですね」

「爪?」

 そう、いわゆる鉤爪かぎづめというものだった。

「手に装着して使う近接武器なんですが、縄などに括りつけて飛ばしたりもできる変わった武器なんですよ。僕たち人間は普通は飛べませんから、壁や木に登る時などに使う事があるんです」

 キリーは意外と知識があった。この説明を聞いたマオは、はーっという感じでキリーを見ていた。

「まあ、僕も実物を見るのは初めてですね。師匠の持ってる文献で見たくらいですから」

 キリーの知識の出所はヴァルラが持っている書物だった。長年の冒険と研究の成果で、大概の知識はすべて書き留められているらしい。さすがは〇百年と生きてきたヴァルラである。

 とりあえず、早速魔力生成された爪を装備してみるマオ。お嬢様なドレス姿に鉤爪という、なんともミスマッチな姿である。

「うーん、さすがにドレス姿だと合いませんね。それに、引っ掛けて破きそうですね」

「ドレスの方は魔法を鍛えれば何とかなると思いますわ。キリーさんだってその姿で剣を振り回しているんですし」

 確かに、剣を振り抜く際にスカートを斬りそうではある。しかし、スカートを鉄壁防御する魔法を、キリーはすでにマスターしているのでその問題はすでに解決していた。

「初めて見るから違和感があるだけかも知れませんね。使い込んでいるうちに、きっとその姿も馴染むと思います」

「そうですわね。『爪といったら私!』くらいになりませんと」

 キリーの無難な言い回しに、マオはすっかりその気になった。

 というわけで、マオは早速爪を装備して、訓練用の人形に攻撃を仕掛ける。しかし、爪の分リーチが伸びたので、思うように攻撃が当てられなかった。

「マオさん。長さ的に短剣、ナイフのようなものを使っていると思えばいいと思います」

「分かりましたわ」

 キリーのアドバイスを聞いて、マオは再度挑戦する。すると、先程と比べても攻撃の当たり方が格段に変わった。

「ひ、引っ掛かってしまいましたわ……」

 しかし、爪である事を忘れていたので、人形に爪の先端が刺さってしまい、抜けずに困っていた。

「マオさん、そういう時は一旦生成を取り消すか、魔力を追加して無理やり切り裂くんです」

 キリーのアドバイスで、今回は魔力を霧散させてなんとか人形から解放されたマオ。

「むぅ……、物理攻撃は難しいですわね」

 典型的な魔法系だったので、武器攻撃の感覚がいまいち分からないマオ。うまくいかずに悔しそうだった。

「マオさんはどっちかいうと魔法の適性が高いですからね。初めてならこんなものですよ。僕だって最初は剣に振り回されましたし」

「キリーさんでもですか……。だったら、私も練習あるのみですわね」

 キリーの失敗談を聞いて、マオは俄然やる気になった。

 この日は陽が暮れるまで、ひたすら鉤爪の使い方に慣れようと頑張るマオだった。

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