第95話 本人からしてもオーパーツ

 討伐が終われば、冒険者ギルドで査定。すべてマオ一人で討伐した事は伝えておいた。

「相変らず、このホップラビットの解体は惚れ惚れしますね。この解体は?」

「それならホビィだ。肉には目がないみたいでな、マオが倒し終わると同時に解体に走っていたよ」

 カンナの問い掛けにヴァルラは素直に答えた。

「ホビィさんですか。この解体技術はすごいですよ。毛皮も普通なら余計な肉が残ってたりするんですが、皮の裏には肉は残ってませんし、討伐時の傷から余計な傷を増やさずに素早く捌かれています。うちで雇いたいくらいですね」

 カンナは毛皮に見入っているようだ。

「ご主人様と師匠以外に懐くつもりはないのです」

 ホビィは即断りを出した。

「ははは、嫌われたようだな」

「ええぇ……、そんなぁ」

 カンナは机に突っ伏してしまった。だが、すぐに姿勢を戻す。なにせ仕事中だから。

「ええと、討伐数はホップラビット10、ゴブリン33、ウルフ4で間違いないですね。討伐部位の痕跡からマオさんの魔力のみ検出されたので、間違いないですね」

 特殊な装置に掛けると、誰がどういう傷を負わせたのかが分かるらしく、それによってマオが討伐者である事が証明された。

 ちなみにこの装置の大本を作ったのはヴァルラである。これのおかげでここ100年の間、誰が討伐したのかどうかという言い争いをすぐに解決できて、トラブルが激減したそうだ。

(いやまぁ、冒険者仲間から相談されて、暇つぶしがてら作った物なんだがな。こうも役に立っておるとは予想外だな)

 ヴァルラは表情を繕っている。というのが良心に引っ掛かっているのだろう。

「あれって、もしかして師匠が作られたんですか?」

 ぷるぷるとするヴァルラにキリーが小声で尋ねる。

「ふぁっ?!」

 驚いて変な声が出るヴァルラ。

「こほん、あれはな、昔の知り合いに頼まれて作ったやつなんだ。誰しも少なからず魔力を持っておるから、冒険者カードを作る際に魔力登録をする。それと傷に残った魔力の痕跡と照合するで、誰が討伐したかを判別するものなんだ」

「ほえぇ、すごいですね、師匠」

「ま、まあな。感知魔法の応用じゃからそんなに難しくはないぞ」

 ぼそぼそと小声で話し続けるヴァルラとキリー。ところが、

「まぁ、ヴァルラ様ったらさすがですのね」

「そうだったんですね、これは驚きました」

「早くおにくを食べたいなのです」

 マオやホビィたちが周りに集まっていた。さすがにあの驚いた時の大声でみんな集まってきてしまったようだった。それにしても、ホビィだけは通常運転である。

「ま、まぁ、私は昔から研究やら開発が好きだったからな。しかし、個人的にはいまいちだと思ったんだが、こうも役に立っておるのなら私としても鼻が高いというものだな」

 ヴァルラは開き直った。ばれたのなら、ごまかし通すとかえってややこしくなるからだ。こういう時は堂々としておいた方がいいのだ。

「それの仕組みは自体は単純じゃからなぁ。引きこもっておったら知り合いが急に尋ねてきて、討伐者が誰かでもめるから解決する道具を作ってくれと言うもんじゃからな。当時の私は引きこもり始めたばかりで、いろいろと面倒だと思っておったから、その辺の水晶に感知魔法を念入りに仕込んで作り上げたんだ。古代魔道具に見せかけるためにな」

 ヴァルラにより盛大なネタ晴らしである。

 製造方法自体は非常に単純なものだった。ただ、その感知魔法の仕込み方が複雑だったので、誰にも解析できなかったというわけである。感知魔法を念入りに仕掛けたという割には、実は鑑定魔法が入っていたりしてるのだが。

 ただ、その後はしばらくヴァルラの愚痴が続いた。どうやら当時の事を段々と思い出してきたらしい。そこで、キリーがとりあえずヴァルラを宥めている間に、マオが査定と報酬の受け取りをして、冒険者ギルドをそそくさと出ていく事にした。

 だったのだが、コターンに呼び止められて奥へと連れていかれるヴァルラたち。騒ぎを聞きつけたコターンが招き入れる事にしたのだ。外に出ても迷惑だろうと判断したためである。

 というわけで結局、このあと数時間にも及ぶヴァルラの愚痴を、キリーやコターンたちは延々と聞かされ続けたのだった。

「おにく……」

 その間もホビィだけが平常運転だった。

「すまなかったな。当時を思い出したらどんどんと腹が立ってきてな。人にいろいろ頼んで研究の邪魔をした挙句、見返りらしきものはほぼなかったんでな。これで怒るなという方が無理だ」

「災難でしたね、師匠」

「さすがにそれはありえませんわね」

 キリーとマオがそれぞれにヴァルラを擁護した。

「これはもっと師匠の素晴らしさというものを広めなければなりません。ね、マオさん」

「ええ、そうですわ、キリーさん」

 頷き合って飛び出そうとする2人を、ヴァルラは止める。

「頼むからやめてくれ、恥ずかしい」

 ヴァルラが目を閉じて顔をかいている。その姿を見て、

「師匠がそう仰るのでしたら、……やめておきます」

 キリーたちは渋々思いとどまった。

「これだけの功績、もったいないとは思いますが、ヴァルラ様がそう仰られるのでしたら、仕方ありませんわね」

 マオも残念そうに足を止めていた。

 コターンにも確認の上、今日の騒ぎを広げないように確約させて、ヴァルラたちはようやく冒険者ギルドを後にしたのだった。

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