第81話 さぁ特訓だ

 マオの服も無事に注文ができた事で、ヴァルラたちは早速街の外で出てきた。マオの実力を見るためである。

「マオは、物理と魔法、どっちの方が得意なのかな?」

「一応魔法の方ですわ」

 ヴァルラの質問に、マオを即答した。まぁ服装を見ても武術を嗜んでいるようには見えないので順当なところだろう。ちなみにこの時の服装は、最初の背中の開いたドレスである。さすがに冒険者用の服は恥ずかしいようで収納魔法に放り込んである。

 それはともかくとして、魔法が得意と言っているので、動きは素早いが害のないホップラビットが対象に選ばれた。また増えてきているらしくて討伐依頼が出ていたのだ。念のためホビィに確認するが、

「大丈夫なのです。ホビィたちの繁殖力は異常ですから」

 全然気にしていないようだった。仲間に対して薄情なものである。

 さて、目の前には無心に草をはむはむするホップラビットが居た。一集団10匹なのは相変わらずである。見ているだけなら和むホップラビットだが、油断するとあっという間に数が増えて、その辺り一帯の草を食い尽くす白い悪魔である。

 ちなみにその食欲旺盛っぷりはホビィにもしっかり残っていて、ヴァルラとキリーの食事を足して、その三倍くらい食べてくれるのがホビィなのである。しかも草食なはずなのに肉も食う。それがホビィなのである。

「じゃあ、試しに狙ってみようか」

「はい」

 ヴァルラの声に、マオは返事をする。

闇の剣シャ・ソルデ!」

 マオは闇属性の魔法を発動する。こういうところはやはり悪魔なのだろう。見た目のせいで闇属性の使い手と言われているが、実際そうなのである。闇以外の方が得意な悪魔も居るが、それでもほぼ全員が闇魔法が使えるのだ。

 さて、問題の闇魔法だが、発動場所が悪かったのか躱されてしまった。

「えっ、なんでぇ?」

「うむ、対象から離れすぎているな」

 悔しそうにするマオだが、ヴァルラは冷静に分析していた。

「発動場所が遠い上に制御し切れていないのか速度がない。あれではホップラビットなら余裕で躱せる。ゴブリンなら当たったかも知れんな」

 闇の剣を躱したホップラビットは、攻撃された事を気にせず、再び草をはむはむし始めた。

「んもう、怒ったのですわ!」

 一度躱されただけでお冠である。1匹に対して何本もの闇の剣を繰り出して放つ。さすがにこれでは回避のしようがなく、数本の闇の剣がホップラビット一体に突き刺さっていた。

「やりましたわ」

「うん、不合格」

 喜ぶマオに対して、ヴァルラの非情の判定。

「な、なんでですの!」

 当然ながらマオは怒った。

「魔法の無駄撃ちだな。ホップラビットは害のない低級の魔物だ。それに対してあれでは話にならん。キリー」

「はい、師匠」

 ヴァルラから話を振られて、キリーはマオが使った魔法と同じものを撃ち出す。すると、たった一本の闇の剣が的確にホップラビットを撃ち抜いた。それを見たマオはかつてない衝撃を覚えた。

 マオ自身も詠唱を簡略化して発動ワードだけで魔法を使えるのだが、キリーはその発動ワードすら省略して魔法を使っていた。見た目が同じような年齢だけに、その衝撃は計り知れなかった。

 それにしてもホップラビットも恐ろしいものである。仲間が2匹やられたというのに、まだ草を食べている。これでは動かぬ的である。

「うむ、全然動く気配がないから、少し練習をしてみようか」

「はい、分かりましたわ」

 マオは集中して構える。キリーがしてみせたような、繊細で正確な魔法の行使。マオは大きく息を飲んだ。

「闇の剣!」

 発動イメージを最大にして、マオはホップラビット1体に対して魔法を放つ。ズドンと闇の剣がホップラビットの胴体を貫いた。そして、こてりと動かなくなった。

「や、やりましたわ」

 かなり集中したのか、疲れたような顔をしているマオ。

「うむ、とはいえたまたまかも知れん。残り7体も頑張ってみようか」

「は、はいですわ」

 だが、群れひとつを全滅させるまでこれは続けられた。なぜなら番が一組でも残れば、あっという間に回復してしまうのがホップラビットだからである。繁殖期が年に何回あるのかも分かっていないのがホップラビットである。身近な割に生態がよく分かっていないが、それでも食卓の優しい味方なのである。

「はぁはぁ……、終わりましたわ」

「うむ、ご苦労だったな。だが、まだ無駄使いが見られる。これからも鍛錬あるのみというところだな」

 倒し終わったところで、ホビィが嬉々として解体作業に入っていた。それはお前の元の種族だろうがと突っ込みたいところである。

「マオさん、お疲れ様です」

 息を切らせているマオに、収納魔法から飲み物を取り出したキリーが近付いてきた。

「あ、ありがと……」

 マオは受け取ると、それを一気に飲み干した。

「……あなたには負けませんから」

「うん?」

 マオがぼそぼそと何か言ってるのが聞こえず、キリーは首を傾げる。すると今度は、

「あなたには負けないと言っているのですわ」

「はい。お互いに頑張りましょう、マオさん」

 大声でキリーに宣戦布告をするマオ。しかし、それはキリーには通じなかった。笑顔でしっかりスルーされてしまったのだ。キリーの態度に、マオは少しイライラしていた。

(さてさて、マオはキリーの事を完全にライバル視してくれたな。どこまで成長できるのか実に楽しみというものだ)

 マオとキリーのボケツッコミを見ながら、ヴァルラはおかしくて笑っていた。この間もホビィは、てきぱきと解体作業を続けていたので、しばらくは妙な光景がそこには広がっていたのだった。

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