第80話 マオの服はオーダーメイドで

「おーい、ララは居るかな?」

 翌日、ヴァルラはキリー、ホビィ、マオを連れてスランクロース服飾店を訪れていた。目的はマオの服を購入するためだ。頭に角、背中には翼があるので普通の服では不都合しかなく、ごひいきにしている店にやって来たというわけである。

「はーい、ただいま伺いますー」

 明るく元気な声が奥から聞こえてくる。

「あら、ヴァルラさんじゃないですか。また来て下さるなんて嬉しいですね」

「うむ、ここの服は作りがしっかりしているからな。他の店も見てみたが、生地は作りが甘いし縫製も雑だ。ついでに染色も色が滲んでいる。私の眼鏡に適う店はここしかないという結論だ。

「そんなぁ、嬉しいな。へへっ」

 ララは店の事を褒められて素直に喜んでいる。

「師匠、師匠は眼鏡なんて掛けてないですよね?」

 その横でキリーが真面目に質問をしてきた。

「ああ、キリー。これはな、一つの言葉のあやというものだ。ここでの眼鏡というのは『見る目』という意味合いだな」

「そうなんですね。ありがとうございます、師匠」

 どうやらこういう比喩的表現を真に受けてしまうらしい。根が真面目っぽいキリーらしい。

「そういえば、そちらの翼のある方は初めて見ますね」

 ララがマオに気がついて話を振る。

「うむ、昨日から私の新たな弟子となったマオだ。見ての通り彼女は翼を持っていてな、合う服をここに探しに来たというわけだ」

「なるほど……。でも、背中の開いた服となるとドレスか冒険者用の服くらいしかありませんので、普段使いの服となると、オーダーメイドで作るしかありませんよ?」

 ララが少し困ったような顔をして、ヴァルラに提案する。しかし、ヴァルラはそんな事は気にしなかった。

「なに、お金ならポーションの売上やら魔物討伐の素材の買取でたくさんある。少々高くなっても問題は無いぞ」

「まぁそこまで仰るのでしたら、お受けします」

 ララ自身は少し迷ったようだが、発注側が気にする様子がないので受ける事にした。

「マオの体格自体はキリーと似通っている。細部は違うだろうから、一応採寸から頼みたい」

「承知しました。では、マオさん、こちらの方へお越し下さい」

 ヴァルラの意見を聞いて、ララはマオを店の奥へと連れて行く。採寸を行うためである。身長や座高はキリーと変わらない感じだが、胸部がはっきりいってキリーより大きい。正確に採寸するのは必要な事なのである。

 今回の注文では、肌着と普段着を数着ずつ、あとは靴も2足ほど作ってもらう予定である。色は注文は出さずとも、今の擬態した状態に合うように配色されるだろう。仕上がりが楽しみなものである。

 ララは採寸した情報を両親に渡すと、マオを連れて売り場へと戻ってきた。戻ってきたところで、ヴァルラはララに声を掛ける。

「一応、売り物の中で似合いそうな服を見繕ってもらっていいかな?」

「はい、構いませんよ。ドレスと冒険者用になりますけれど、どうされますか?」

「魔物討伐に行く事もあるだろうから、冒険者用を見せてもらっていいだろうか」

「畏まりました。こちらの区画に並んでます」

 というわけで、冒険者用の服を見せてもらう事になった。

 なんというか、冒険者の服は露出度が高い物が多かった。マオはあまり肌をさらすのを嫌うようなので、売り物をいくつか組み合わせて納得のいくように頑張っていた。

「うん、こんな感じでいいと思いますわ」

 納得のいく組み合わせが作れたようである。

 背中の開いたレオタードにアームカバー、ひざ丈スカートに膝上丈のブーツという組み合わせだった。これでも正直マオとしては不満である。お嬢様だから仕方のない事だが、魔物討伐に行くのならこんなものだろう。

「本当にお買い上げありがとうございます。ご注文の服なんですけれど、ちょうど領主様からも依頼が入ってますので、仕上がりまで7日間は最低でも見て頂く事になります。でき上りましたら、商業ギルドを通じて連絡が行くと思いますので、気長にお待ち下さい」

 ララからこう告げられたので、今回買った冒険者用の服は当分普段使いになりそうである。マオは盛大なため息を吐いた。ちなみに寝間着は寝間着でちゃんと別口で購入した。

「まぁ仕方ないな。しばらくは我慢だな」

「はい。向こうでも私たちは特別に仕立てて頂いてましたので、我慢致しますわ」

 マオはしゅんとして俯いていた。

「そういう時は従兄妹の店にでも行っておいしいのを食べて下さい。ヴァルラさんたちが来るのを楽しみにしてますから、レリたちは喜ぶと思いますよ」

 ララはにこにことして話している。

「ははは、なかなか商売上手だな。うむ、そうさせてもらおうか」

「はい。マオさんを見たら、ロロ兄は泣いて喜ぶと思いますよ」

「人見知りで厨房から出てこないというのにか?」

「出てこないだけであって、厨房から覗いてますから。おいしそうに食べる姿は元気の源らしいですよ」

「そうか」

 一同に笑いが起きる。

 こうして用事を終えたヴァルラたちは、スランクロース服飾店を後にしたのだった。ララはそれを笑顔で手を振って見送った。

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