第79話 ヴァルラと悪魔の関係

 領主への挨拶を終えて、ヴァルラたちは家へと戻る。だが、マオはどうにも落ち着かない様子だった。

 それもそうだろう。帰り道で道行く人たちからじろじろ見られていたからだ。そもそも目立つ3人に加えて、マオも悪魔という事を含めても外見は美少女なのである。

 詳しく言えば、ヴァルラはローブ姿とはいえ、金髪の長身の巨乳美人。キリーは青みがかった銀髪のメイド服美少女。ホビィはワンピースを着た大きな二足歩行のウサギ。そこにつややかな黒い髪と翼のワンピース美少女が加われば、なおの事目を引くものである。見るなという方が無理なのだ。

「まぁこのスランの街は見ての通り普通の人間ばかりだからな。有翼人というだけで目立つのは無理もない。そのうちホビィのように慣れてくれるさ」

「はい。マオさんはお綺麗ですから、みんなが見てしまうのも仕方ないと思います。僕たちも最初の頃はよく見られましたから」

 マオに対して、ヴァルラとキリーがそれぞれにフォローを入れる。それを聞いて、マオは少し落ち着きを取り戻したようである。

「お、お二人がそう仰るのでしたら、そういう事にしておきますわ」

 お嬢様口調に戻るマオ。だが、キリーに褒められたのが嬉しかったのか、少し頬が赤くなっている気がする。

「ふふ、照れてるのです」

「うっ、うるさいですわよ!」

 ホビィに指摘されて、怒るマオ。顔が真っ赤である。

「おいおい、揶揄うのもそれくらいにしておきなさい。それともホビィは夕食は要らないのかい?」

 家の中に入ろうとするヴァルラは、振り返って窘める。これを聞いたホビィは、

「わわわっ、ご飯抜きは酷いのです。悪魔より悪魔なのです」

 慌てて揶揄うのをやめた。悪魔が目の前に居るので言い方がかなり酷くなっている。これでもマオに配慮した言い方らしいので、マオがくすりと笑っていた。

 その日の夕食は、ちゃんとホビィもありつく事ができた。

「それにしても、マオといったか、よくフェレスからここまで一人で無事に来れたものだな」

 ヴァルラがマオに疑問をぶつけてみた。

「確かに道中には魔物が居ましたが、あれくらいでしたら私の魔法程度でも相手にはなりません。それに……」

「それに?」

「お父様からいろいろ道具を渡されましたから。無事にスランに着けるようにと」

 食事の場なのでその道具は出されなかったが、娘に甘い父親だろうなという事は想像できた。だが、甘やかされたというのにマオの方はしっかりしている。弟のガットの方はうん、まぁ、そのという感じだ。双子でも男女とはいえ、こうも性格に差が出るのは面白いものだ。

 食事も終わる頃だった。

「そうだ。ヴァルラ様、お父様から手紙を預かっています」

 マオが思い出したように、収納魔法から手紙を取り出した。収納魔法が使えるという事は、このマオも魔法のセンスがあるという事である。あれだけ隙だらけの魔法を使っていたいうのに、収納魔法を使いこなしているのは驚きである。

「ほぉ、魔法は未熟だというのに収納魔法は使いこなしておるのか」

「はい、私が最初に使えるようになった魔法がこれだったのですわ」

「それは珍しいというかあり得ない話だな。だが、これだけしっかり使えているのなら事実なのだろう」

 ヴァルラは感心しながら、マオから手紙を受け取る。すぐに開封して中身を読んだヴァルラは非常に驚いた。

「なんとまぁ、あの時の悪魔の子孫だったか……」

 ヴァルラは思い当たる節があったようだ。

「君の祖父であるチュマーだが、彼とは戦った事がある」

「ええ?!」

 マオは驚いたが、ヴァルラは少し間を置いてその時の事を語り出した。

 冒険者だった頃に、他のパーティメンバーと悪魔と交戦をした事があるのだ。当時も悪魔は嫌われていたので、討伐依頼が持ち上がったのだ。正直気が進まなかったのだが、街の住民たちから強く迫られて、いやいや承諾したというものだった。

「師匠はどうされたんですか?」

「討伐には向かったさ。だが、そこに広がっていたのは予想外なものだったな。普通に村を作って生活している悪魔たちが居たのだからな。別に悪さをしているわけでもない。人間たちと変わらない普通の営みだったさ」

「という事は?」

「ああ、討伐はしないで、もう一人居た魔法使いと一緒に変化の魔法を教えて逃がしたさ。多分、マオの父親や兄が使う魔法はその時のものだろう。ああ、依頼のつじつまを合わせるために実力を見るという事で戦いはしたがな。チュマーはその時の一人だ」

「そうなんですね」

 どうやらその時の逃した悪魔の一部がフェレスの街を作ったという事らしい。

「なるほど、お父様がヴァルラ様の名前を聞いて驚いた理由が分かりましたわ」

 ヴァルラの話にマオも納得がいったようである。

「さて、話も終わった事だし、お風呂にでも入ってきなさい。キリー、頼めるかい?」

「はい、師匠」

 キリーは返事をすると、お風呂の支度を始める。

「幸いキリーと身長はほぼ同じだから、明日は街の案内ついでに服でも買おうか。そのドレスしかないだろう?」

「いえ、一応いくつか持ってきていますわ。似たような物ばかりですけれど」

「だったら、せっかくだし人間の文化に触れるのも悪くなかろう。よいな?」

 マオは少し面倒くさいと思ったが、ヴァルラの圧に屈して頷くしかなかった。

 非常にバタバタした一日ではあったものの、結局は平穏無事にその夜も更けていった。

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