第63話 領主からの呼び出し
「ヴァルラさん、指名依頼が入りました」
翌日冒険者ギルドへやって来たヴァルラたちに、カンナがいきなりそう切り出した。
「どういう事だ?」
訳が分からないので、ヴァルラはカンナに内容を聞いた。
それによれば、どうやら依頼主はスランの街の領主のようである。ここまでの実績を踏まえて、ヴァルラたち3人への指名依頼を出したという事だ。領主から依頼が来るという事は、それだけヴァルラたちの評判が広まっているという事である。それは名誉というものだ。現にカンナは自分の事のように舞い上がっている。
「まぁそれはいいとして、依頼の内容を確認させてもらっていいか?」
ヴァルラは冷静である。
ヴァルラに突っ込まれたカンナは、「そ、そうですね」と言いながら依頼書を取り出した。しかし、その表情は困惑気味であった。
「とはいっても、分かっている事はこれだけなんです」
「どれどれ……?」
ヴァルラたちが依頼書を覗き込むと、そこに書かれていたのは『ヴァルラ、キリー、ホビィの三名を私の元まで連れてくる事』という文言だけだった。依頼というか命令のように見える。
「いやこれは、命令だな。まぁ、いい加減この街に住んで長くなるから、領主にお会いしておいた方がいいな」
ヴァルラはそう言ってキリーとホビィを見る。2人は領主の事がよく分からないようで、ヴァルラの視線にどう反応していいのか困惑しているようだった。
「うーむ、これは分かっていない感じだな。というわけだ、会ってみようと思うから日程を調整してもらえないか?」
「……分かりました。では、決まりましたらこちらからお伝えに参ります」
というわけで、領主に会う事が決定したのだが、日程の調整を行った上で改めて伝えるという話で決着した。しかし、その間に何かを依頼を受けようと思ったが、相変わらずヴァルラに回ってくる依頼は無いようである。できすぎるのも問題のようである。
翌日の事、ヴァルラの家に冒険者ギルドの職員がやって来た。対応したヴァルラたちの前に現れたのは、なんとコターンだった。冒険者ギルドのギルドマスターが直々に来るとは予想外だった。
「ギルドマスター自らとは、仰々しいな」
「そう言わないでくれ。領主がこれから会いたいと仰られているのでな。そこで俺が役目が回ってきただけというわけだ」
ため息が聞こえる。領主と聞いて、誰もが断った様子が容易に想像できる。つまり、コターンにこの役割が回ってくるのは必然だったという事である。
諦めの表情に染まったコターンに引き連れられ、ヴァルラたちはスランの街の領主の館にやって来た。領主の館だから真ん中にあるかと思いきや、実はかなり辺鄙な場所に建っていた。ヴァルラの家のある場所の様な街を囲む塀から近い、小高い丘のような場所に建っていた。
「こんな場所に建っているとは意外だのう」
ヴァルラがこう言うのも無理はない。なにせこの場所は、先日散策で回った場所だったからだ。立派な建物だとは思ったが、まさか領主の館だとは思わなかった。
さて、領主の館の入口には衛兵が立っていた。鎧兜を身に着けて、右手には槍を持ったそこそこの重装備の衛兵である。
「冒険者ギルドマスターのコターンだ。領主様の命により、ヴァルラ、キリー、ホビィの3名を連れて参った」
コターンが依頼書を取り出して、衛兵に見せる。衛兵はジロジロとヴァルラたちを見た後、依頼書を確認する。そして、領主から受けた命令とを照らし合わせた。
「案内致します」
命令と一致したので、衛兵は一名が門を開ける。そして、コターンたちを屋敷へと案内する。
さすが領主の邸宅である。屋敷までの道のりが長い。コターンによれば、領主は成り上がりで財を成した人物らしい。さすがは商業都市と言うべきだろうか。その影響力は近隣の都市にも大なり小なりあるようである。
それを聞いたヴァルラは、今回の招集の理由をなんとなく察した。簡単な話、魔物討伐でも腕が立ち、ポーションも良質な物を作り出すのだから、スランの今後を考えれば抱え込みたくなるのは仕方のない話なのだ。
何にしても、この招集は今後の活動に大きな影響を及ぼす事は、想像に難くはない。
というわけで、ヴァルラは領主との面会に向けて、改めて気合いを入れ直した。
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