第62話 魔法の畑の成果
さて、いよいよ家の畑が収穫できるようになっていた。魔法でずるをしたとはいえ、一面の薬草や野菜はこれでもかと実りを付けていた。季節に関係なく実りを付けているので、もう一回魔法で生育させた後、本来のサイクルで育てる事にしているらしい。これにはキリーとホビィが首を傾げていたが、ヴァルラ曰く「理から外れたものは、予想もしない弊害を招く」との事。長く生きてきたヴァルラが言うと、すごく重みのある言葉である。
最初の収穫は、3人で手分けして行った。そして、生育第二陣となる種以外は収納魔法へと放り込んでいく。食事に使ったり薬の材料にしたりはしないようだ。研究のために取っておくそうだ。
「キリー、この種の鑑定をしてみてくれないか?」
「えっ、鑑定ですか?」
ヴァルラからの指示に、キリーは面食らっていた。だが、弊害の警戒をするのであれば、鑑定するのは当然であろう。
では、なぜキリーに鑑定作業を振ったのか。それは先日のキリーの鑑定魔法が特殊なものだったからだ。ヴァルラの鑑定魔法でも分からなかった内容が、キリーの鑑定魔法では得られたのだ。キリーの鑑定魔法を解析する上で、その結果をどんどんと蓄積させていく必要があるというわけである。
「分かりました。僕が鑑定してみます」
キリーもヴァルラの表情から何かを読み取ったのか、一つ一つ鑑定魔法にかけていく。
その鑑定魔法の結果は、いつに普通のものだった。ただ、共通して付いていた一文を除いては。
『この種を育成した場合、通常の物よりも良い物ができる』
上質な物が収穫できる事が確約されているような一文である。さすがにこれはヴァルラにも意味が分からなかった。
「いい物ができるとは、やはり魔法の影響を受けているという事なのかな?」
「うーん、僕には分かりません」
ヴァルラが尋ねれば、キリーからは当然のようにこの答えが返ってきた。ちなみにホビィは訳が分からないので、適当な雑草を食っていた。
「まぁ、いい物ができるというのなら、植えて育ててみるしかないな」
「はい、僕もそれがいいと思います」
というわけで、雑草処理をしていたホビィに退いてもらうと、ヴァルラは種を植えていった。今回も魔法を使えば、7日間程度に短縮できるはずである。
本来、魔法を使った短縮農業は、管理がかなり難しくなる。土壌管理や水分管理など、細やかな管理が必要な作業を、魔法を使って無理やり短縮させているのである。それはもうどう管理していいのかなんて、分かるはずもないという事なのである。それをしっかりやってのけるのだから、ヴァルラが並大抵の魔法使いでない事の証左でしかないのだ。
種はとりあえず使って大丈夫だと分かったので、ヴァルラが魔法を使って畑に種を植えていく。そして、前回と同じ魔法を作用させていく。すると、あっという間に種から芽が出てきていた。その様子を見て、ホビィはぴょんぴょんと跳ねている。
それにしても、地面から芽が勢いよくにょきにょきと出てくる光景は、とても人には見せられないものだと言えよう。そのくらいには異様なのだ。
「さて、それはそれとして、収穫した野菜とかも確認してみようか。キリーの鑑定がどんなものか、知る事に越した事はないからな」
ヴァルラが指を立てながら、どこか誇らしげに言っている。とはいえ、それは確かに言える事である。能力を正確に把握しておくのは大事なのである。
とりあえず家の畑で採れたたくさんの野菜をキリーに鑑定させてみた。結果はヴァルラの鑑定魔法より少し詳しい情報が得られた。やはり、キリーの鑑定魔法はヴァルラのものよりも上位の魔法のようである。
その日の食事は、その収穫した野菜と先日購入した野菜を使ったソテー。味にも違いが出るのか食べ比べである。同じ野菜を同じ調理法で食べ比べる、シンプルイズベストである。
「うーん、やっぱり野菜は格別なのです」
ホビィはそうだけ言っており、食べ比べていなかった。肉も好きなホビィだが、やっぱりホップラビットは野菜が一番だったようだ。とても幸せそうな笑顔を浮かべており、野菜を食べる手が止まらない。これでは、ホビィの感想は期待できなかった。
だが、ヴァルラもキリーもその違いが分からなかった。どうやら、味に関しては魔法による生育促進の影響は受けないようだった。となれば、評価のランクが上がっている第2世代の野菜の味に期待したいところである。魔法が野菜に与える影響というものは、ヴァルラの新たな研究項目となった。
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