第61話 相変わらず謎の食堂
いろいろとポーションを作りまくった翌日は、それを商業ギルドに納品する。最低位の解毒ポーションと解痺ポーションとはいえど、品質が優と優良とあれば買取価格は跳ね上がった。ついでに、わざと失敗した毒ポーションと麻痺ポーションも買い取ってもらった。
「なんで、こんな品質のポーションが作れるのに、失敗作を作ってこられるんですかね」
今日の受付はマリカではなかったが、ポーションを目の前にした受付の女性はこんな事を言っていた。
「キリーの後生のためだよ。成功だけしていった人間は挫折の時に人生が終わる。わざと失敗をしておくのも精神衛生的には必要なんだ」
どこか達観したヴァルラ。さすがに200年以上の時を生きている人物は、見る目が違うようである。
「だが、失敗作とはいえ使い道のあるものだしな。教えるついでとはいえ楽しかったぞ」
ヴァルラがこう言って笑い始めると、目の前の受付は困惑の表情を浮かべていた。
商業ギルドでの用事を終えたヴァルラたちは、スランの街の散策を始める。住み始めてから結構経つのだが、よくよく思えばスランの街の全体を歩いた事はなかったのである。なので、今回は住んでいる場所とは反対側の方を見てみる事にした。だが結局、これと言って目ぼしいものは見つからなかった。何と言うか普通の街並みだったのだ。
歩き回って疲れたヴァルラたちは、先日やって来た食堂へと足を運んでいた。
「いらっしゃいませ」
レリが出迎える。相変わらずの客足の無さだが、経営には問題ないらしい。どうやって成り立っているのかはなはだ疑問である。
それはさておき、ヴァルラたちは席に案内されるとメニューを見る。メニューは以前の通りで増減はしていなかった。ヴァルラは以前頼んだ唐揚げにしようかと思ったが、かつ丼なる文字とその絵が気になり、かつ丼を注文する事にした。キリーとホビィはピザが気になった模様。
「ご注文承りました。提供までに時間をかなり頂きますのでご了承下さい」
レリは笑顔で接客すると、厨房へと注文を通していた。
相変わらず不思議な雰囲気の店である。何と言ってもレリの服装が独特である。キリーの着ているメイド服のようではあるが、肩が出ていたりスカートが短かったりと、意外に肌の露出が多い。頭の装飾も、メイドなら通常キャップを身に着けるところが、フリルと呼ばれる物を付けたヘアバンドである。別世界の景色を夢に見ると言っていたが、なかなかに興味を引かれて仕方がなかった。
いろいろと思いを馳せていたせいか、思ったより退屈せずに料理を待てた。ヴァルラの前にはかつ丼、キリーとホビィの前にはピザが置かれていた。どちらも見た事がない料理である。
「わわっ、おいしそうなのです」
「思ったより量が多いので、食べ切れるかな……」
「ご主人様、食べ切れなくても心配ご無用なのです。ホビィが食べてあげるのです」
キリーとホビィは、そのピザの大きさにそれぞれ反応していた。
「どれ、どんな味かな……」
ヴァルラはフォークを手に取る。
かつ丼のかつは、オーク肉を揚げたものらしい。多分、先日大量討伐したオーク肉が入荷元と考えられる。卵もダッシュバードを使うらしいが、まぁ入手はそう難しくないからこうして提供できるのだろう。
味わってみた結果、それは大満足だった。さすがは別世界の料理だ。それを再現できるロロという料理人が気になるところだが、レリに聞いても人見知りが凄いので、話をする事はできないとの事らしい。研究に余念がないヴァルラとしては話を聞いてみたかったので、これは非常に残念だった。
「料理だけが生きがいですので、どうかご容赦下さい」
レリはそう言って申し訳なさそうにしていた。だが、相手を困らせるつもりは毛頭ないので、ヴァルラは分かったと了承しておいた。
街に関しては主だった新しい情報が無かったが、たまにはただのんびり過ごすのも悪くない。キリーとホビィも喜んではいた。
というわけで、こちらもひいきにしている八百屋に寄って食材を購入する。
こうして、スランの街をぶらりと歩いただけの一日は暮れていったのだった。
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