第60話 続・ポーション作製
翌日、久しぶりに家でのんびりする事にしたヴァルラは、キリーやホビィと一緒に畑の世話をしていた。
畑に植わっているのは各種ポーションの素材となる薬草と、野菜数種類にゴマである。ホビィの好物である人参もしっかり植わっている。最初の一回は失敗できないと、ヴァルラは大量の魔法を施しており、どれもこれも生育が早かった。植えてからたったの数日だというのに、すでに収穫までもう少しというところまで育っていた。いくらなんでも急ぎすぎな気もする。
「に・ん・じ・ん、に・ん・じ・ん! 楽しみなのです!」
すくすくと育つ人参に、ホビィはすっかり楽しみになっているようだ。
というわけで、畑の世話はホビィに任せて、ヴァルラはキリーを連れて新たな薬の制作に取り掛かった。
「初級、下級のポーションと下級魔法ポーションはこの間教えたね。これから作るのは解毒ポーションと
解毒ポーションはその名の通り、毒そのものを消したり中和させたりするポーションだ。解痺ポーションは麻痺状態を治すポーションだ。どちらも状態異常としては食らう可能性の高いもので、命に係わる危険性を持っている。なので、そういった状態異常が引き起こされないと分かり切った場所でない限りは、必ず持ちある事になる重要度の高いポーションなのである。
さて、これらのポーションの材料なのだが、ここでもやっぱり登場するのはルーオナ草なのである。回復系のポーションならほぼ確実に入っている定番の万能選手である。ただ組み合わせる材料が大きく違っている。
回復系ポーションではあるが、治癒ポーションや魔法ポーションとは異なり、組み合わせる材料は魔物から獲れる素材なのだ。ほとんどがその状態を引き起こす魔物の
それはともかくとして、解毒ポーションと解痺ポーションの作製に取り掛かる。どちらも使う材料によって四段階のポーションが存在する。微、無印、強、猛の四段階であり、毒は微毒なら自然治癒も見込めるが、猛毒なら一日生きていられたら幸運というレベルである。麻痺も微麻痺なら多少の部分的な痺れが起きる程度で数分から数10分で自然治癒するが、猛麻痺なら寝たきりの危険性すらあるというものである。
ただ、戦闘中であればわずかな隙も命取りになる。その隙を取り除くのが各種ポーションというわけだ。
というわけで、これも以前作ったポーション同様に微系のポーションから作る事にした。
実は、解毒ポーション(微)の材料は昨日に確保済みである。そう、スパイダーホーネットの腹袋である。これはお湯で茹でた解毒済みのものでもまったく問題は無い。実はこの腹袋にある毒を生み出す器官は、お湯で茹でようが破壊されない。なので、普通の人間が扱った場合は糸を取り除いた後は、腹袋ごと燃やして処分してしまうのだ。ただ、その際にヴァルラのように薬剤知識がある人物が居れば、錬金の材料として引き取る事もある。
解痺ポーションの材料の方は、残念ながら簡単には手に入らない。麻痺の状態異常は鉄級や銅級冒険者が行くような場所では、ほぼ起こらない状態異常だからだ。だが、ヴァルラが以前暮らしていた森の中には、その材料があったのだ。キノコである。何種類か生えているキノコの中の一つが解痺ポーション(微)の材料である。
どちらも作り方はルオーナ草と一緒に磨り潰して、沸騰する水と混ぜ合わせるという他のポーションと全く変わらない作り方である。ただ、どちらも材料に毒性があるので取扱注意である。しかも作り方を失敗すると、真逆の効果の毒ポーションや麻痺ポーションが出来上がる。だが、これはこれで需要がある。
「それじゃ、作り方を見せるから、よく見ておくのだぞ」
「はい、師匠。よろしくお願いします」
ヴァルラは解毒ポーションから作り始める。スパイダーホーネットの毒嚢とルオーナ草を鉢に入れて磨り潰し、それを水と一緒に加熱していく。作り方はいたってシンプル。
ここで重要なのは水の温度と魔力だ。普通のポーションでもそうだが、作製者の魔力は技術同様に錬金術の成否や品質に影響を及ぼす。腕前がへっぴりでも魔力が高く質が良いと品質や効果への影響が相殺される事もしばしばある。
ヴァルラはゆっくりゆっくり丁寧に混ぜ合わせる。解毒ポーションの場合は、温度は高い方がよい。低いと毒ポーションになってしまうし、さらに低すぎると廃棄物どころか道具が全部ダメになる。火の強さ、撹拌する速度、そのすべてが繊細な作業なのだ。
5分ほど混ぜ合わせたところで、ヴァルラは火から鍋を下す。鑑定をしてみると「解毒ポーション(微)、優品質」と表示が出てきた。優品質は即効性が高く、無印に匹敵する効果も望める。つまり、毒のランクを二段階下げられる(可能性のある)品質という事である。
「さすがです、師匠!」
キリーがぴょんぴょんと跳ねている。
「まぁこんなものだろう」
ヴァルラも久しぶりに作ったとあってか、ちょっと緊張していたようだ。
「さぁ、この後はキリーにも作ってもらうぞ」
「はい、師匠。頑張ります」
ヴァルラから言われたキリーは、気合いを入れていた。
結局この日は、二人でポーション作りに明け暮れたのだった。
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