第59話 即席パーティー
やって来たのはスランの街から近い森である。
選ばれた依頼は採集系討伐クエストだった。魔物から獲れる素材を納品するタイプの依頼である。「ウルフの毛皮」とか「ダッシュバードの肉」だとかそういう戦利品を納品する依頼の事である。
ヴァルラが選んだ依頼は、『スパイダーホーネットの腹袋を集める』というものだった。
スパイダーホーネット。蜂なのか蜘蛛なのかよく分からない生き物である。足は8本、2対の羽を持ち、腹部から毒糸を吐いて捕食するというホップラビットより少し大きな虫である。足が8本なので昆虫ではない。スパイダーホーネットの好物はホップラビットや野ネズミである。あと、見た目のせいで女性冒険者からはすこぶる嫌われている。
さて、このスパイダーホーネットの腹袋はどんなものかというと、毒糸を生み出す器官なので毒を持っている。だが、その毒は茹でる事で無毒化できるという。そして、茹でた腹袋を割くと中から上質な糸が採れるのである。貴族のドレスにも使われるような光沢が特徴的で、魔法耐性と毒耐性を持つ優れものである。
このスパイダーホーネットは人間は捕食対象外である。毒糸を吐かれても人間は食われる事はないが、毒と糸によってやがて呼吸困難で稀に死ぬ事がある。その上群れるために危険度はあるが、炎の魔法さえあれば怯む。対処法が分かれば倒しやすい部類に入るのだ。
ヴァルラたちはスパイダーホーネットが目撃される森に到着する。森の中なので足場が不安定、炎の魔法も使いづらい。だが、生息域はほとんどが森の入口なので、威嚇攻撃をして森の外に誘き出す戦法が一般的である。
「私なら別に森の中でも構わんが、君たちの実力を見るためだ、あえて威嚇攻撃をするよ」
ヴァルラがこう言うと、スザークたちは身構えた。キリーとホビィも構える。
ヴァルラが使った魔法は、少し熱を持った風を走らせるというものだった。これによって、熱から逃れるために虫はその反対側へと誘導されるのである。
目論見通り、スパイダーホーネットが森から出てくる。数にして30ほど。虫が苦手なヒャコが悲鳴を上げている。
「いくなのです!」
元のホップラビットなら天敵であるスパイダーホーネットに蹴りを入れるホビィ。あえなく1体撃破である。これで誘き出されたスパイダーホーネットの意識がホビィに向けられた。そこへすかさずスザーク、ブゲン、セイルの攻撃が飛んでいく。スザークが剣、ブゲンが拳、セイルは魔法だ。意識が完全に逸れていたスパイダーホーネットはあえなくその攻撃を受けて沈んでいく。さすがに銅級冒険者となっただけの事はある。耐久の弱いスパイダーホーネットが一撃で沈んでいく。ヒャコも怖がりながらも、3人をサポートしている。
キリーだって負けていない。ただ、殺すのはまだ気が引けるようなので、風魔法で羽や脚を斬り落としている。こうやってキリーが機動力を奪ったところを、ホビィたちがきっちり撃破していく。
ヴァルラはその様子をただただ見ている。ホビィの一撃のおかげで相手は完全に引き付けられ、6人が討ち漏らす事はなかった。ヴァルラは本当に様子を眺めているだけだった。
見事な連携攻撃で、あっという間に30ほど居たスパイダーホーネットはすべて撃破された。スパイダーホーネットで使い道があるのは羽と腹袋のみ。それ以外は使い道が無かった。キリーの鑑定でも新しい情報は出てこなかった。
「うむ、思ったより連携は取れるようだな。即席で組んだキリーとホビィを加えても乱れていない。素晴らしいものだな」
ヴァルラからの評価は高かった。評価を話しながら、ヴァルラは残ったスパイダーホーネットの始末をしている。解体した残骸は燃やすか埋めるのがマナーである。ちなみに、魔石もいくつか採れた模様。一部は攻撃で壊れてしまったらしい。まぁ仕方ない。
こうしてスパイダーホーネットの腹袋を集める依頼は完了した。それと同時に、キリーとホビィを任せられる冒険者が見つかったのはよかった。自分の弟子ではあるとはいえ、いつまでも面倒を見ているわけにはいかない。自分の身一つで生きていけるようになってもらいたいのだ。
依頼を完了させて報酬を受け取ると、暗くなるまで街の食堂で盛り上がったのだった。
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