第57話 記憶を紐解く魔法

 さて、どうしたものか。仲裁を買って出たものの、中堅冒険者が完全にキレてしまっている。これでは話し合いで解決とはいかなさそうだ。隊商の証言でもあればいいのだろうが、何日前の出来事か分からないし、今から探すも大変である。

 そこで、ヴァルラは研究していた魔法を試してみる事にする。本当は亡くなった人物から残留思念を取り出す魔法だったのだが、いかんせん試す機会が無かったのだ。生体に使ってどういう影響があるかも分からないが、これはいい機会だと思ったのだ。

「やれやれ、感情的になってしまっておるからな、その体に直接聞いてみるか」

 ヴァルラは詠唱に入るが、冒険者たちは口論したままでそれに気が付いていない。キリーとホビィは黙ってその様子を見ている。

「その記憶をここに呼び覚ませ、メメレ!」

 長い詠唱だったにもかかわらず、誰にも邪魔されずに魔法の詠唱が終わる。すると、場に居た7人の冒険者全員から何やら空中に映像のような物が浮かび上がった。

「な、なんだ?!」

 当然ながら驚く。

「お互いの主張が対立して平行線だからな、記憶に直接聞いてみてるのだよ」

「はぁ?! そんなわけ……」

 ヴァルラの言葉を一蹴しようとしたが、

「あっ、この状況は!」

 4人一組の冒険者の一人が叫ぶ。どうやら隊商が魔物に襲われた時が映し出されたようである。それぞれ7人の記憶が合わさり、一つの場面が映し出されている。

 7人で隊商に襲い掛かる魔物を撃退していると、4人組の男性一人の視線がくるりと別方向を向いた。その視線の先には別の魔物の群れがすごい勢いで近付く様子が映っていた。すぐさま近くに居た仲間の一人に声を掛けて、迎撃に向かう。

「ふむ、これは確かに放っておいたら隊商の馬車が確実に一台消し飛んでおるな」

 この迎撃のおかげで、隊商の馬車の幌が半分ほど破けただけで中身は無事に済んでいたようだ。なお、最初の魔物の方も、馬車を半壊させるまでには至っていたが、最終的にはすべて無事で済んでいた。よくこの人数で20~30体は居ただろう魔物の群れから隊商を守り抜けたものである。

「よく積み荷が無事で済んだな。後から現れた魔物への対処が遅れていたら、壊滅もあり得たぞ」

 ヴァルラは顎を触りながら、映像の感想を漏らしていた。

「今の魔法何なんだ! てか、あんたは何者だ!」

 キレまくってた中堅冒険者グループのリーダー格の男が、今度はヴァルラにキレている。よく血管が無事である。

「なに、私が開発した記憶を読み取る魔法だよ。元々は亡くなった人間の最期を看取るための魔法だったが、なるほど、こういう使い方もできるか」

「ま、魔法を作った、だと?!」

 冷静に答えるヴァルラに、男が驚きの声を上げている。さっきからいちいち大げさな行動である。男と一緒に居る他の二人もつられたように驚いた顔をしている。

「それと、名乗るほどでもないが、森の魔女と呼ばれているのは何を隠そう私の事だ」

「なっ?!」

 わざわざポーズを決めるヴァルラ。それを見たキリーがカッコいいと言わんばかりに目を輝かせている。

「あなたが、森の魔女……」

 若い方のパーティーも全員が驚いている。なるほど、森の魔女というのはしっかり広まっているようだ。

「見せてもらった結果、若い方のパーティーの判断は間違っていなかったようだ。あの状況でよく気付けたものだな」

 ヴァルラが若い方の冒険者たちのリーダーと思われる男性に声を掛けると、どういうわけか顔を赤くしていた。それを見ていた隣の女性の頬が膨れたような気がする。

「とりあえず、そっちの男性は謝罪しておいた方がいい。他の2人は止められなかったのも悪いが、ほぼ一人で暴走していたようだからな」

 ヴァルラに視線を向けられると、中堅冒険者のリーダー格の男は斜に構えて「悪かったな」とだけ言っていた。うん、これは謝っていない。

 だが、若い方のパーティーがこれでいいと言ったので、これでとりあえず解決したという事に落ち着いた。

 後は慌てて戻ってきたコターンも交えて、改めて仲裁が行われて表向きは無事に騒ぎは収束したのだった。

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