第56話 トラブル遭遇

 翌日、冒険者ギルドに依頼を探しに来たヴァルラたち。すると、ギルドの中がどうにも騒がしかった。何があったのか、ヴァルラたちは中へ入って様子を窺ってみる。

「まったく、若造の分際で出しゃばりやがって、てめぇらのせいで被害が増大したんだから反省しろ!」

「何を言ってるんだ。俺たちが気が付いたからあの程度で済んだんだ。言いがかりはよしてくれ!」

 口論が起きている。ヴァルラが辺りを見るとカンナが居たので、状況を確認してみた。

 カンナが言うには、時間のかかる依頼を受けた複数のパーティーが依頼を終わらせて戻ってきたらしい。だが、その時の報告を巡って口論が起きたのだという。どうやら説明が食い違っていたらしい。

 だが、これは複数で進行する依頼ではたびたび起こる事だ。そのためにギルドマスターなどが出てきて仲裁をするのだが、どうやらコターンは留守らしく収拾がつかなくなっているそうなのだ。しかも、怒っているのは中堅冒険者のパーティーで、反論しているのは初心者を卒業して間もない冒険者たち。どう考えても若いパーティーには不利な状況だった。しかも、中堅冒険者の方が苛立ちを募らせており、一触即発の状態だった。

「すまないが、騒ぐなら外でやってもらいたい。他の冒険者が依頼を受けられずに困ってるぞ」

 あまりに膠着状態が続いているのを見ていられずに、ヴァルラが声を掛ける。

「何だぁ、女」

 明らかに怒りが収まっていない冒険者は、すごく歪んだ顔をしてヴァルラを見る。その剣幕にキリーは怯え、ホビィは構えた。

「とりあえず場所を移そう。ギルドの業務にも支障が出る。言い分はあるだろうが、邪魔をし続けるなら出禁を言い渡される可能性があるぞ」

「むっ……」

 ヴァルラが出禁という単語を出した途端、中堅冒険者の男は少し怯んだ。そして、仲間の方を見る。

 その様子を確認したヴァルラは、

「カンナよ。裏の訓練場を使わせてもらえないかい? こ奴らをそこへ連れていく」

 と、カンナに伝える。

「わ、分かりました。ただ、今居る職員では、乱闘騒ぎになると対応できませんので気を付けて下さい」

「ふむ、まぁ仕方あるまい。もしもの時は私たちで対処するから心配しないでくれ」

 ヴァルラはこう言って、騒いでいた冒険者パーティー2組を訓練場へと連れて行った。後ろの方では見物していた冒険者たちがいろいろ言っていた。ルール上、手出しできなかったとはいえ、誰も止めなかったのは褒められたものではない。実際、ギルドの業務がその間止まっていたのだから。

 訓練場へとやって来たヴァルラたちは、2組のパーティーと向き合った。

「さて、とりあえず事情を聞こうか。来たばかりで状況が分からんのでな」

 ヴァルラの言葉に、中堅冒険者が怒りを向けてくるが、ヴァルラが魔力を解放したり、ホビィが軽やかなステップからパンチを繰り出したりして、やる気満々なところを見せるとおとなしくなった。相手の力量を見る能力はあるらしい。

 事情を聞けば、2組とも同じ護衛の依頼を受けていたらしい。行きは特に何もなく無事に護衛を終わらせたらしいが、問題が起きたのは帰りの護衛の依頼の最中だった。

 魔物の群れが出てきたらしいのだが、その対処をしている間に別の魔物の群れに襲われたらしい。魔物の群れが偶然鉢合う事はあるのだが、この襲撃には違和感を感じたらしい。

 その時の対処で、護衛している隊商の荷物に被害が出たらしく、それを巡って口論となっていたというわけだそうだ。

「で、その別の襲撃に気が付いたのが……」

「はい、俺たちの方です」

 双方の言い分を聞いていて、この若手の冒険者たちの判断は間違っていなかったと思われる。おそらく、気付かなければ全滅すらもあり得ただろう。

 ところが、中堅冒険者たちの方は、特にリーダーと思しき男が完全に頭に血を上らせており、どうにも口論で収まりそうに雰囲気が無かった。

 はてさてどうしたものか。さすがにヴァルラも余計な事に首を突っ込んだと、少し後悔していた。

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