第55話 鑑定魔法の謎
ゴマから油をあっさり作ってしまったキリーだったが、キリーに聞いてみれば、鑑定魔法で作り方を見る事が出来たという。キリーの鑑定魔法は謎が多いようだ。
「ふむ。ではキリー、ゴマの畑で育てる方法は分かるかい? 油が作れるというのなら、その材料を自前で用意できた方がいいと思うのだが?」
こういった発想ができるあたり、さすがはヴァルラといったところか。質問されたキリーは「ちょっと待って下さい」と言って、残ったゴマに鑑定魔法を掛けていた。すると、
「育て方、分かるみたいです」
「本当かい?」
キリーが育て方が分かるというので、それを紙に書き出させる。文字を教えておいて正解だった。
育て方を書いた紙は数枚に及んだ。それを見たヴァルラは、
「ふむ、これならうちの畑で育てられそうだな」
と育てる気になったようである。
それにしても、キリーの鑑定魔法は効果が未知数である。
本来の鑑定魔法は、名前とその簡単な説明しか見る事が出来ない。応用方法などの派生した項目を見る事は、ヴァルラですらごく一部見る事が出来ないのだ。もちろん、ゴマ油の作り方やゴマの育て方などを見る事はできない。キリーの規格外の能力に、ヴァルラは底の知れなさを感じていた。
「まぁ、キリーの性格上、間違った使い方はしないだろうが、これは他人には黙っておいた方がよいな。ホビィもいいかい?」
「もちろんなのです!」
というわけで、ヴァルラはしっかりと釘を刺しておいた。
ちなみにこの時作ったゴマ油はあまり量が多くなく、ポーション用の小瓶2本程度の量だった。とりあえずポーションと間違えないように瓶自体の色を変えておき、調味料の入れてある棚に保管しておいた。
その夜、キリーとホビィを寝かしつけた後、ヴァルラはキリーから聞いた鑑定魔法の結果をまとめていた。それによれば、キリーの鑑定魔法で分かるのはかなり多岐に渡っているようだった。
物の名前や効用、毒の有無が分かるのは鑑定魔法の基本だ。人の名前や年齢、職業も少し高位になれば当たり前のように分かる。他には魔物の生態や弱点くらいまでといったところだ。極めてくると魔物を鑑定する事で、取れる素材と利用方法まで分かる。
それを考えれば、ゴマの利用方法はおろか応用品の作り方まで鑑定できるのは、かなりの高位の鑑定魔法である事が分かる。つまり、キリーの鑑定魔法は、年齢的に考えると常識外れの究極位の鑑定魔法であると結論付けられるのだ。
「やれやれ、魔力災害を引き起こす危険すらある魔力量だとは思っておったが、その魔法の効果も常識を覆すレベルだったか……」
ヴァルラは椅子にもたれ掛かって、ため息を吐いた。
200年以上生きてきて達せなかった領域に、まだ子どものキリーが達しているのだ。正直言って嫉妬のような感情すら覚えてしまう。だが、そのキリーは純真無垢な子どもなのだ。自分に向けられるあの屈託のない笑顔を思い出すと、不思議とその嫉妬の心が静まっていく気がした。
「そうだな、私ができる事は、あの子の能力を引き出す事と、道を間違えないように導く事だな……」
ヴァルラは机に突っ伏した。
キリーの能力は確かに優れている。だが、扱い方はまだ下手である。それこそ、駆け出しの魔法使いが初心者を脱した程度だ。あの潜在能力が制御できないうちに暴走する事があろうものなら、以前警戒した魔力災害よりも悲惨な結果を招きかねない。それこそ世界滅亡すらあり得るのだ。
ひとまず、今日分かった事をまとめ終わったヴァルラは、思いっきり椅子にもたれ掛かって伸びをする。ヴァルラは長年研究を行ってきたが、その枠に収まらないどころか最初からはみ出していたキリーという存在。自分を慕ってくれるその存在を、ヴァルラは本当に大事にしようと思った。
自分の気持ちにある程度整理をつけられたヴァルラは、ゆっくりとベッドに入って眠りについたのだった。
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