第53話 食い意地が原点となるか?

 家に帰ったヴァルラたち。ヴァルラはお風呂と食事、キリーはポーション作り、ホビィは畑の管理と、まだ明るいうちにやれるだけやる事にした。

 キリーのポーションも初級、下級ポーションと下級魔法ポーションだけだが、品質は優の物を安定して作れるようになっていた。さらには、多少薄めても効果があまり下がらないという特性まで身に付けていた。

 ホビィは元が草食魔物とだけあって、植物にはかなり詳しい。だからこそ畑の管理を任されている。余計な雑草も食べられるなら食べてしまっているが、使える風魔法を使って引っこ抜いては切り刻んで肥料に変えたりもしている。実に有能なウサギなのだ。

 気が付くと、ヴァルラができる事はだいぶ減っていた。おかげで余った時間を研究に回す事ができそうである。

 というわけで、この日の夕食はダッシュバードの肉を使ったステーキである。さすがに唐揚げは作り方が分からないので再現できなかったようだ。それでも、ホビィの活躍でかなりの肉の在庫がある。しばらくは食事に困らない。

「おっにくー、おっにくー、今夜もおっにくー♪」

 ホビィがご機嫌に鼻歌を歌っている。それにしても肉にこだわり過ぎていないだろうか。だが、そのあまりの嬉しそうな表情と声に、どちらかといえば和んでしまうものである。

「さて、今日獲れたての新鮮な夕食だぞ。キリーもホビィも席に座りなさい」

「はい、師匠」

「はいなのです」

 ヴァルラが言うと、キリーもホビィも元気に返事をして椅子に座る。実に素直な子たちだ。

「むむ、鳥さんのステーキなのです」

 ホビィの表情が険しくなる。

「昼に師匠が食べた”唐揚げ”なる物ではないのです?」

 その表情のまま、ホビィはヴァルラを見た。予想通りの行動とあってか、ヴァルラからは笑みがこぼれる。

「いや、やっぱりホビィは唐揚げを予想していたか。キリーは見てはいたが再現が難しそうだなという顔だったが、ホビィは目を輝かせていたから、容易にその反応は予測できたぞ」

 キリーは無言のまま一度頷くと、ホビィを見て肩をすくませて笑っている。

「な、なんですと……、なのです」

 ショックを受けたのか、ホビィは項垂れた。

「いや、調理法を聞いただけではさすがに再現はできんよ。小麦粉をまぶして油で揚げるとはいっても、油の量や温度、それに時間など細かい情報が必要になる。それに油は貴重だからな」

 唐揚げが用意できなかった理由をヴァルラは説明する。最大のネックは油だという事らしい。入手方法がオークの脂身くらいなのだから、確かに貴重なのである。オークは倒すのが難しい。ホビィは楽に倒していたが、銀級冒険者でも一人では苦戦を強いられる事のある相手だ。

 しかし、あの店では油が潤沢にあるのだろうか。商業ギルドくらいしか人が来ないとはいえ、油はそう蓄えが無いはずである。とても毎日提供できるものではないだろう。謎が多い。

 ヴァルラが考えている最中も、ホビィはとても残念そうな表情を崩さなかった。

「ホビィ、今は無理だが、そのうちきっと食べさせてやるからな。油の量産方法をきっと探し出してみせよう、なぁキリー」

「はい、そうですね、師匠」

 少しぼーっとしていたのか、キリーの反応が一瞬遅かった。普通なら気にならない程度だが、ヴァルラにもホビィにもごまかせる誤差ではなかった。

「どうしたキリー」

「ご主人様?」

 二人から心配されるキリー。それに対して、キリーは驚いたように反応する。

「あ、ごめんなさい。油の事でちょっと思い当たる事があったので……」

「本当か?」

 キリーが発した言葉にヴァルラが食いつく。ヴァルラにしては珍しい反応の仕方だ。

「いつもの八百屋さんで練習がてら何気に鑑定していた時に、油がどうのこうのっていう表示を見た気がするんです。もしかしたら、野菜から採れる油があるのかも知れません」

 キリーの言葉に、ヴァルラは考え込んだ。そして、

「分かった。明日は八百屋に行くぞ」

 ヴァルラは決断した。

 この時の決断が、後々に大きな影響を及ぼす事になる。ヴァルラは研究者のはしくれとして妙に燃えていた。

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