第52話 その腕前、伝説級

 薬草や野菜の採集、それに魔物を捌いた肉や皮を持って、ヴァルラたちは冒険者ギルドへやって来ていた。夕方ともなれば、近場に出ていた冒険者たちが戻ってきていて、そこそこの人数がロビーにうろついている。

「すまない、依頼は受けていないが査定を頼もう」

 ヴァルラが受付で声を掛ける。対応したのはカンナではなかった。どうやら今日はお休みのようである。なんとなく不愛想に見えるが、相手が曲者ぞろいの冒険者なので、これくらいじゃないと務まらないのだろう。キリーはヴァルラの陰に隠れる。

「はい、査定ですね」

 そう言った受付は、ヴァルラたちの姿を見る。隣に居たでかいウサギに、視線が一瞬止まった……気がした。

「ヴァルラさんですね。ギルドマスターからの言伝で、解体の買い取りは奥の解体所で行うようにと言われております。こちらへどうぞ」

 というわけで、ヴァルラたちは解体所へと移動する。

「それではお出し下さい」

「そんなに多くはないぞ」

 受付に言われたので、ヴァルラは一応断っておいた。

 収納魔法から出てきたのは、採集中に襲い掛かってきたウルフが8匹、ダッシュバードが20羽少々だった。そのすべてはきれいに解体済み。受付をはじめ、その場に居合わせた全員が、解体の見事さに息を飲んだ。

「すごいですね。毛皮も肉もまったく損なわれていない」

 じろじろと見ながら受付が呟く。

「失礼ですが、この解体を行ったのは?」

「ホビィなのです!」

 受付がちらりと視線を寄こした瞬間、ホビィが声を上げた。全身ふわもこで可愛いワンピースを着た大きなウサギが、血なまぐさい解体をすべてやってのけたというのだ。これが驚かずにいられるだろうか。……無理である。

「ご主人様は優しいから、解体が行えないのです。だから、ホビィが代わりに汚れ役を引き受けたのです」

 ホビィはふんすと鼻息荒く事情を説明する。だが、その絵面のギャップに、誰もまともに反応できそうになかった。

「……悪いが、査定に取り掛かってもらえんかね。説明が必要ならその後にでもしよう」

 反応の悪さに、ヴァルラは頭を抱えながらツッコミを入れる。すると、受付は我に返って解体班を呼んだ。こうして解体の査定が始まった。

 すると、解体班から驚きと称賛の声が聞こえてくる。そして、野次馬たちが見守る中、その査定額が発表される。数が数とはいえ、昨日のオークに比べると楽な相手ばかりだ。期待はできないはずだった。

 ところが、出てきた金貨は120枚。思ったよりも高額だった。

「毛皮は穴の一つもなく、肉も血抜きが完璧で最上級判定でした。いや驚きましたね。私どもの解体班がお手上げレベルの解体なんですから」

 なんとまぁ、技術料の上乗せが行われたらしい。熟練の解体班ですら負けを認める腕前。それを行ったのが兎人族のホビィなのだから驚きである。しかも、今回で2回目の解体作業なのだから、もはや天才レベルである。

(いや、これもキリーの影響なのだろうか。キリーは一度見た技術を再現してみせる能力を持っている。そのキリーの魔力の影響を受けたホビィなら、ありえん話ではないな……)

 200年以上生きるヴァルラですら驚愕する能力である。しかし、その一方でこの能力を発揮させているキリーに興味が俄然湧き上がっていった。

「やったのです!」

 自分の技術を褒められたホビィは、キリーに近付いて頭を差し出す。どうやら撫でてもらいたいらしい。それを理解したキリーは、

「うん、すごいよホビィ」

 と褒めながら撫で回している。その様子を見ていた野次馬や受付は、

(尊い……)

 とうっとりしながらその光景を見続けていた。その癒し効果は絶大で、いつもなら殺伐としている冒険者ギルド内が、しばらくの間ほんわかとした雰囲気に包まれ続けていた。

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