第51話 純粋な思い

 腹ごしらえを終えたヴァルラたちは、街の外へ移動して魔物を狩ったり採集をしたりする事にした。収納魔法があるのでどちらを先にしてもいいのだが、まずは採集をする事にした。

 作った畑で野菜や薬草を育ててはいるが、まだ育て始めたばかりなので水やりや雑草抜き程度しかやる事はない。なので、当分の間は外へ出て集めてこなければならないのだ。

 というわけで、感知魔法を使いながら採集を開始。さすがに二人の手にかかれば早いものである。たまに魔物が出てきても、ホビィの蹴り一発で大体は沈んでいた。ホビィの解体技術も昨日に比べたら格段にレベルアップしていて、捌き終わるまでの時間が10%くらい短くなっていた。

「お肉に毛皮~♪」

 鼻歌まで歌ってご機嫌のホビィ。元々が草食獣などとは思えないくらい、肉にこだわりを持っているようである。

「お肉と野菜のバランスが大事なのです。野菜だけじゃホビィにはとても足りないのです」

 ヴァルラが聞いてみれば、ホビィはそう力説してきた。実に興味深い。

 十分に野菜や薬草を摘み終わる頃には、魔物の討伐数もそこそこの数になっていた。大体ははぐれウルフとはぐれホップラビットだった。

「ホビィみたいなタイプじゃないと、群れからはぐれたホップラビットは野垂れ死ぬだけなのです。ウルフや人間に襲われるだけじゃなくて、寂しくて死んでしまうのです」

 ホビィが言うにはホップラビットは単独行動ができないらしい。つまり、群れからはぐれた時点で高確率で死が決定づいてしまうそうだ。

「でも、ホビィもご主人様たちからはぐれてしまうと、不安で仕方なくなると思うのです。なので、ずっと一緒に居るのです」

 ホビィはそう言って、キリーに抱きついてきた。

「キリー、これは責任重大だな」

「えっ、師匠、それってどういう意味ですか?!」

「さぁてな」

「し、師匠?!」

 採集を終えたヴァルラたちは、キリーが混乱する中、夕暮れまでに魔物の討伐も少し行う事にした。

 さて、今回の狩りのターゲットはダッシュバードだ。

 なぜダッシュバードかというと、昼にヴァルラが食べた唐揚げの材料だからである。ヴァルラはよっぽど気に入ったようだ。

「ダッシュバードはホップラビットよりも素早い。しかも油断すればくちばしが飛んでくるから気を付けるんだぞ」

「分かりました、師匠」

「任せてなのです」

 ホビィはともかく、キリーも決意したからには狩る気十分である。

 さて、ダッシュバードの生息域に着いた。夜は森に引きこもるが、名前の通り走り回るので、日中は草原など広い場所で見られる魔物である。飛べない鳥のような名前をしているが、実はわずかながら飛べるという鳥である。

 目の前にはくすんだ緑というか灰褐色というか、とにかく汚れた感じの色をしている鳥が居る。これがダッシュバードである。わずかに飛べるとあって、駆け出しレベルの鉄級冒険者では苦戦は必至という魔物である。

 主な攻撃は、走ってきてくちばしで突撃するというもの。ただ、走ってきて飛び上がっての突進攻撃をたまに行うので、これが鉄級冒険者が苦戦する理由となっている。並大抵の装備じゃ、この飛翔突進を防ぐ事ができないからである。

 ところが、ヴァルラから指導を受けたキリーと、獣人化して強力な個体となったホビィには、飛翔突進すら通じるわけがなかった。二人の風魔法は完全にダッシュバードの突進攻撃を封じていた。突進を止められて混乱するダッシュバードは、哀れにもホビィの蹴り攻撃で簡単に沈んでいった。

「今夜もお肉なのです!」

 どれだけ肉を食べたいのだろうか、このウサギは。蹴り倒したダッシュバードを、笑顔で捌いていくホビィ。キリーは困った表情でその様子を見守っていた。

「やれやれ、もしかしたら、キリーの隠された欲望が反映されたのかも知れんな」

「僕の隠された野望?」

「うむ。キリーは奴隷だっただろう? 満足な食事も取れてなかったから、その反動がこういう形で出てきているのかも知れん。それとホップラビットの食欲が一つになって、今のホビィの性格になったのだろう」

 ヴァルラはそう話しながら、ホビィの解体作業を見守る。すると、ホビィは解体がひと区切りついたところで、

「ホビィの願いはご主人様と一緒にお腹いっぱい食べる事なのです!」

 と笑顔で言い放った。そして、残りの解体を再開する。

「だそうだ。キリー、愛されてるな」

 ヴァルラがキリーに目を遣る。

「ええ、そうみたいですね」

 キリーが少し顔を俯けるが、その頬には光るものが確かに見えたのだった。

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