第40話 元気いっぱい

 それからはしばらく、ヴァルラはキリーにつきっきりでスランの街での依頼を消化していった。もちろん、ポーションの納品も忘れずにである。

 そのかいもあってか、街の中からはキリーとホビィに対する悪い評判は淘汰されていった。ちなみにキリーのポーションは、評価「優」にランクアップしていた。

 また、ホップラビットのホビィもなかなか多芸に秀でているようだ。子守の依頼の時には子どもをあやしたり、探し物の依頼の時は嗅覚をフルに使ってすぐに見つけ出したりと、とても魔物とは思えない人懐っこさと最弱系とは思えない能力の高さを発揮していた。

「キリーちゃん、またホビィちゃんとセットで依頼が来てますよ」

「えっと、どんな依頼ですか?」

「孤児院の子守ですね。ふふふっ、すっかり常連さんになっちゃってますね」

 カンナが笑顔でキリーに話し掛けている。カンナの話を聞いて、ホビィはキリーの頭の上で「キュイキュイ」と小さく跳ねている。それにしても、ホビィはキリーの頭の上がお気に入りのようである。まだ子どもで小さいとはいっても、重くないのだろうか。

「それで、受けて下さいますか?」

 依頼書を見せながら、カンナがキリーに迫ると、

「はい、受けます」

 と元気よく返事をする。

「うむ、ならば今日はキリーとホビィだけでやってみるか? 孤児院までは送るがな」

「はい、やってみます」

「そうか。ならば、私はこの依頼を受けよう」

 もう街の中ではキリーとホビィのコンビの事はかなり有名になっているし、危険性が無いと認知しているので、ヴァルラは二人だけでやらせてみる事にした。これにもキリーからは元気な返事が返ってきたので、ヴァルラは久しぶりに錬金術に使う素材収集のために別の依頼を受けた。

「ヴァルラさんが出てこられると、何と言うか魔物が可哀想になってきますね」

「そう言うな」

 カンナとヴァルラのこの会話に、キリーは「師匠はお強いですものね」と笑っていた。

 依頼を受けて孤児院に到着すると、キリーはヴァルラと別れて孤児院に入る。

「ごめん下さい。ギルドの依頼を受けて参りましたキリーです」

 扉を叩いて挨拶をするキリー。しばらくすると、中から孤児院の職員が出てきた。

「お待ちしておりました、キリー様。今回も依頼を受けて下さり、感謝致します。ささっ、お入り下さい」

「お邪魔致します」

 職員が中に招き入れると、キリーは軽く頭を下げてから中へと入っていく。キリーの今日の服装はいつものメイド服である。というか、もうメイド服しか着ていない。同じものを二着ほど新調したらしく、着回しているそうだ。

「あー、おねえちゃんだーっ!」

「わあい、ウサギも居るよ。ウサギ、ウサギ!」

 今日もキリーとホビィは大人気である。

「あらあら、さっそく囲まれてしまってますね」

「ですね。さあ、キリーちゃんたちに任せている間に、私たちはやる事を片付けてしまいましょう」

「了解です」

 孤児院の職員たちは、キリーとホビィの周りに孤児院の子どもたちが集まっているのを確認すると、それぞれに散る。屋根や床の修理、衣類の補修、大きな子どもたちは庭の草引きなど、小さな子どもたちが一か所に集まっている間に様々な仕事を片付けていった。普段は子どもたちが走り回っているので、意外と手が付けられなかったのである。そういう理由があって、孤児院は時々ギルドに子守の依頼を出していたのである。

 そんな事とは露知らず、キリーとホビィは子どもたちと部屋の中で戯れていた。並大抵の体力なら子どもたちに振り回されるところだろうが、キリーもホビィもその点では負けていなかった。

 昼食を挟んだ午後は、今度は庭に出ての子守だったが、これも特に問題なくこなしていた。庭には木が数本生えてはいるが、キリーもホビィもいつの間にか先回りして登らせなかった。木に登らせないでと頼まれていたから全力で止めたのだ。

 こうして、全力で子どもたちと戯れているうちに、気が付けば夕方になっていた。

「キリーちゃん、ホビィちゃん、今日は助かりました」

「いえいえ、僕でよければいつでも力になります」

 職員がお礼を言うと、キリーは笑顔で元気いっぱいに答えている。あれ、あれだけ激しく動いてたのに、なぜまだ元気なのだろうか。

「おねえちゃん、また遊んでね」

 子どもたちからそう言われると、

「うん、また遊ぼう」

 キリーはこちらにもちゃんと笑顔で返していた。

 街に突如として現れたメイド服の少女は、また今日も元気いっぱいに笑顔を届けているようである。

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