第39話 可愛いは無敵

 早速、キリーはホビィと一緒に街の清掃活動のクエストを受けた。昨日の事があるので、常に横にはヴァルラが付き添っている。

 掃除自体はキリーとホビィが行い、ヴァルラはその持ってきたごみを風魔法で作り出した袋の中に放り込んでいくという手順になっている。さすがに汚物を亜空間に放り込むわけにはいかない。

 昨日見せていた落ち込みもすっかり無くなっており、キリーとホビィは元気いっぱいにごみを拾い始めた。

(やはり、これくらい元気な方が安心できるな)

 ヴァルラは二人の後ろを微笑ましく思いながら歩いている。

「師匠ー、こっちこっちーっ!」

 キリーが元気いっぱいにヴァルラを呼んでいる。

「やれやれ、今行くぞ」

 何というか、キリーがとても張り切っている。それにしても、きれいに見える街とはいえ、探せば結構ごみは落ちているものだ。キリーもよく見つけているが、それ以上にごみを見つけてくるのはホビィだった。

 ホップラビットの魔物としての能力は、それこそ最弱クラスのもの。主な害といっても繁殖で増えすぎた際に畑を荒らすくらいだ。だが、ホップラビットが草原を枯らす事はない。限度というのを学んだのだろう。

 ところが、ホビィの能力というものは、従来のホップラビットからはとても想像もできないものだ。なにせ、昇級したばかりの銀級冒険者を一撃で伸せるほどである。ホップラビット自体は鉄級冒険者でも楽に勝てる相手なのだから、ホビィの能力の異常さがよく分かるだろう。

 その上で、ホビィはキリーにとても懐いているし、ヴァルラにも少しずつ慣れ始めていた。これもキリーが間に居るからだろう。

 そうこうしているうちに、クエストで請け負った範囲の清掃が終わってしまった。ヴァルラが作った風魔法によるごみ袋の中には、汚泥や衣服の破けた端、落ち葉などが入っている。

「それじゃ、ギルドに戻って報告しようか」

「はい、師匠」

「キュイ」

 ヴァルラの呼びかけに、キリーとホビィは返事をする。

「と、その前に」

「キュイ?」

 突然ヴァルラがホビィを見たかと思うと、浄化魔法を使ってホビィを洗浄していた。

「その汚れた体でキリーの頭に乗るわけにはいかんだろ?」

 ヴァルラは笑みを浮かべてホビィに言う。

「キュ、キュイ!」

 ホビィは自分の体を見て納得したのか、ヴァルラに駆け寄って体をすり合わせていた。

「こら、私も今は汚れが付いておるのだ。きれいにしたばかりなのによさんか」

「キュイー……」

 また泥だらけになってしまったホビィは、しゅんと落ち込んでしまった。

「まったく、仕方のない奴だな」

 ヴァルラは大きなため息とともに、もう一度浄化魔法を使う。再びきれいになったホビィは、嬉しそうに飛び回ると、キリーの頭上に収まった。

「じゃあ、改めてギルドに戻ろうか」

 キリーはヴァルラと手をつないで、ギルドに向けて歩き始めた。

 その戻る途中では、昨日の事が広まっているのか、街の人のキリーたちへ向ける視線が多かった。しかし、素行の悪いマスールが相手だったという事もあり、

「あの頭のウサギがマスールって冒険者を一撃で倒したらしい」

「あれってホップラビットじゃないの。冗談やめてよ」

「いや、マスールがいきなり振り下ろした剣を避けて、飛び蹴りで倒したんだ。俺は見てたんだ」

「マスールって態度悪い筋肉だけの奴か。それはスカッとするが、本当にあの頭のホップラビットがやったのかよ」

「私も見てた。筋肉だるまを倒したのは事実だし、その前に八百屋さんで買い物してたけど、あのウサギはすごくおとなしかったわよ」

 という感じでいろいろ噂をしているが、それほど悪い評判は無さそうな感じだった。

(なるほど、大好物の野菜を見てもおとなしかった事が、悪い評判を打ち消していっているといったところか)

 ヴァルラは満足そうに笑っている。

「どうされたんですか、師匠?」

「いや、何でもない」

「そうですか?」

 これなら、思ったよりも早く誤解は解けそうだと感じたヴァルラは、もうしばらくこの方針を続ける事にしたのだった。

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