第38話 反省会と対策会議
夜、ヴァルラが帰ってきたので、キリーは昼あった事をヴァルラに相談した。それを聞いたヴァルラは、何とも言えないくらい複雑な顔をしていた。
「うーむ、やはりホビィの事を問題視する奴らが出てきたか……。まぁ、そっちはいくらでも対処のしようはあるが、その八百屋のご婦人の話は実に興味深いな」
いろいろ考えていたヴァルラだったが、魔物をパートナーにしていた元冒険者の婦人に一番興味を示したようだ。
「はい、何かあったら相談してしてほしいと言われました」
「うむ、同じ事象を経験した人というのは貴重だぞ。魔物をパートナーにする者はたまに存在する。大方の場合はテイマーという一つの職業になるな」
「テイマー?」
ヴァルラから出てきた単語に、キリーはきょとんとして首を傾げる。
「テイマーというのはな、やり方は人によって違うが、魔物や動物を従えて使役する人物を言うんだ。キリーやその婦人のように魔物と気持ちを通わせるタイプも居れば、魔法などを使って無理やり従わせるようなタイプまで実に多岐にわたるんだ」
夕食を取りながら、ヴァルラによるテイマーの講釈が始まった。キリーは興味深そうにそれを聞いていた。
「キリーのようなタイプはその婦人も言った通り、魔力共有という特殊な状態になる。魔力の譲渡が行われる事で、お互いの特性が影響し合うんだ。ホビィの場合はほぼキリーから一方的に流れているが、キリーにもホップラビットの持つ俊敏性が影響している可能性はあるな」
「じゃあ、マスールさんを一撃で伸したホビィの攻撃って……」
「うむ、キリーの身体能力に影響を受けて、ホビィが大幅強化された結果だな」
キリーは驚いていた。が、ヴァルラは更に衝撃的な一言をぶつけてくる。
「それに、ホビィの食欲が低いのも、キリーの魔力によるものなんだよ」
「ええ、そうなんですか?!」
「うむ。さっきも言った通り、ホビィにはキリーから一方的に魔力が流れている。その魔力がホビィの食欲も満たしているから、ホビィは食事をあまりしないんだ」
ヴァルラの説明を受けて、驚きはしたものの、キリーは最終的に納得していた。よく分からないけど、それでほとんど説明がついてしまうので納得せざるを得ないのだ。
「しかし、今日の事はすまなかったな。もう少し街の人の信用を得るまでキリーを一人にすべきではなかった。完全に私のミスだ」
キリーを一人にして危険な目に遭わせてしまった事に、ヴァルラは唇を嚙んだ。
「い、いえ。師匠は悪くないです。でも、周りの人からの視線で、あんなに恐怖を感じるなんて思ってもみなかったです」
「多分、キリーの心の奥底に、奴隷時代に受けた仕打ちの恐怖が残っているんだろうな」
キリーが両手を振ってヴァルラを許しているが、昼の事を思い出すにつれてどんどんと手の動きが止まり、ついには俯いてしまった。
「銀級に上がったばかりの冒険者を一撃で伸してしまう強さの魔物。その魔物を連れた人間。……一般人が恐怖するのは無理はないが、時が経っても変わらんものだなぁ……」
ヴァルラは椅子に座ったまま大きく仰け反る。
「師匠もそんな時期があったのですか?」
「あったよ。駆け出しの魔法使いだった頃からずっとな。私は長命だったし、そういう対応を取られ続けたから森に引っ込んだんだよ」
「ええ?!」
「まったく、伝説の魔法使いとまで言われておるのに、怖がる奴は石まで投げてきおったからな。私が短気だったら、その一帯は血の海ぞ」
どうやら、ヴァルラは過去に謂れなき迫害を経験し続けていたようだ。しかも、魔法使いの頂点に立ってからもというのだから驚きである。
「この街には私とパーティーを組んだイムカの子孫が居るから、冒険者ギルドの耳に入れればそのうち沈静化するだろう」
姿勢を戻したヴァルラは、腕組みをしながらそう言っては頷いている。
「ただ、冒険者ギルドの力を借りたとて時間はかかる。しばらくはこの街になじめるような方向で活動するか」
「はい、師匠」
今度は両肘をつくヴァルラ。キリーにそう語りかけると、キリーは両こぶしを握って気合いを入れる。
「でも、どういう事をするのですか?」
気合いを入れたポーズのまま、キリーは顔を向けてヴァルラを見る。
「なに、キリーとホビィが危険でない事を示せればいい。具体的には街の清掃とかそういう仕事だな」
ヴァルラがにっこり微笑む。
「分かりました。ホビィ、頑張ろう」
「キュイッ!」
ヴァルラの提案に気合い十分のキリー。何にしても元気になってよかったと思うヴァルラなのであった。
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