第35話 ヴァルラとホビィ
その夜も、ヴァルラはキリーとホビィを観察していたが、ホビィはキリーと同じ量の食事をして満足した様子だった。キリーは成長期にあるのに食事の量はそれほど多くはない。最初の頃は必死に教えたテーブルマナーもしっかり身に付いており、口周りが少々汚れるくらいで済むようになっている。その上で、食事を終えたキリーは、同じく食事を終えたホビィの口周りを拭ってやる気配りも見せていた。服装はメイドそのものだが、貴族の子女に混ざっても問題ないくらいの気品が備わっているように思われる。
ヴァルラはホビィの秘密を探るべく、寝静まったキリーとホビィの様子を見る。
(魔力感知……)
こっそりと魔力の流れを確かめる魔法を使うヴァルラ。これによって、ホビィの食欲が異常にない理由が分かった。
(なんと、キリーの魔力を食べているのか)
ヴァルラが見たのは、キリーとホビィの間につながった魔力の筋だった。どうやら魔力を共有しており、その魔力によってホビィはすでに満腹に近い状態になっていたのだ。魔力共有をしていれば互いに魔力を共有し合い、魔力はお互いの間で行ったり来たりする。だが、キリーとホビィとの間の流れは、キリーから一方的に出ているだけだったのだ。
(キリーの魔力はそもそも多いとはいえ、これだけ一方的に流れているのも珍しいな)
単に両者の魔力量の差と言えるだろうが、これだけ一方的だと、ホビィの体が魔力の量に耐えられるかという懸念点があった。せっかく可愛がっているホップラビットなのだから、万一があればキリーは悲しむだろう。
「キュイ?!」
そうやっていると、ホビィが目を覚ました。
「っと、すまない。目を覚まさせてしまったか」
ヴァルラとベッドの上のホビィの目が合う。すると、顔を下に向けたと思ったホビィが、勢いよく顔を上げる。どうやら「気にするな」と言っているようだ。
「ふっ、そうか。ところで、体調に問題は無いか?」
ヴァルラもその言い分が分かったらしく、体の状態について聞いてみる。するとどうだろうか、
「キュイ、キュイッ!」
そう鳴いてドヤ顔を決めてみせた。「大丈夫だ」と言っているようなのだが、どうやらホビィはヴァルラの言葉が分かっているような素振りである。
「ふっ、そうか。調子が悪くなったらいつでも相談してくれ。言葉は分からなくとも、多少の意思疎通はできるようだしな。……まったく、君みたいな魔物は初めてだよ」
ヴァルラは楽しそうに笑う。それに呼応するかのように、ホビィもキリーを起こさないようにしながら、ベッドの上で飛び跳ねていた。
「本当に面白い。さて、キリーを起こさないように私はそろそろ退散しようかね。それじゃ、また明日な、ホビィ」
「キュイ」
ヴァルラがゆっくりと部屋を出ていく。ホビィは完全に扉が閉まるまで、その姿をずっと見ていた。
「キュイ~……」
気を張っていたのか、ヴァルラが部屋から遠ざかると、ホビィはその場でへたりと座り込んだ。まぁ仲間が全滅させられてしまったので、本心では怖いのだろう。それでも、自分を拾ってくれたキリーの保護者なので、怖いとは思っていても恨んでいない様子。
気の抜けたホビィは、顔をふるふると左右に振って気を入れ直すと、キリーの顔に体をこすりつけた。
「んん……」
くすぐったかったのか、キリーがかすかに声を出す。一瞬驚くホビィだったが、すぐにすやすやとした寝息に戻ったのを見て落ち着いていた。
「キュイ、キュキュイ」
ホビィは何か語気を強めて鳴くと、もぞもぞと布団の中へと潜っていく。そして、キリーに寄り添うようにして体を丸めると、すやすやと眠るのだった。
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