第34話 魔物は懐かないものらしい
薬草の収集クエストも終わったので、昨日作ったポーションを商業ギルドに納品してみる事にしたヴァルラ。キリーは頭の上にホビィを乗せたままなのだが、緊張の面持ちをしている。
商業ギルドにやって来ると、姿に気が付いたマリカが声を掛けてきた。
「ヴァルラ様、キリーちゃん、いらっしゃい」
そして、駆け寄ってきたのだが、キリーの頭に乗った物体に気が付いてぎょっととしている。
「キリーちゃん、その頭のって……」
「キュイ?」
マリカが指差すと、ホビィが首を傾げて鳴いた。
「うん、この子はホビィっていうんです。ホップラビットの子どもなんですよ」
「えええっ、ホップラビットって懐くものなんですか?!」
キリーが笑顔で答えると、マリカが絶叫する。それに反応するように周囲から一気に視線が集まった。
「うーむ。懐いた例が無いわけではないが、これだけ好意的に懐くのはあまり聞く事はないな」
ヴァルラはそう言いながら、マリカに近付く。
「それよりもポーションの納品に来たのだが、オットー殿は居られるかな?」
「はっ、ギルドマスターですか? ええ、いらっしゃいます」
びっくりしたマリカは周りを見て、騒ぎが大きくなっている事に気が付く。なので、ヴァルラたちをオットーのところまで案内する事にした。騒ぎの原因が自分なので、いたたまれないといったところだろう。
「ギルドマスター、ヴァルラ様がいらしてます」
「おお、そうか。通しなさい」
マリカが扉をノックして話し掛けると、中からすぐさま返事が返ってきた。
「すまないな、忙しいだろうにな」
「いえいえ、ヴァルラ様がいらしたとあれば、無理にでも手隙に致しますよ」
オットーからとんでもないセリフが返ってきた。
「いや、仕事はちゃんとしてくれ。それはそうと、ポーションを持ってきたぞ」
「おお、それはありがたい」
そう言ってヴァルラは、オットーの机の上に黄色のラインの入った瓶と空色のラインの入った瓶を、収納魔法から取り出して並べた。
「うん? 二種類あるのですか?」
並べられた瓶を見て、オットーは首を傾げながら言う。
「うむ。黄色の方は私が、空色の方はキリーが作った物だ。キリーには初級治癒ポーションしか作らせていないが、私の方はちゃんと初級と下級の治癒ポーションと初級魔法ポーションがあるぞ」
ヴァルラの説明で改めて瓶を見ると、確かに黄色のラインの方は液色の違う三種類のポーションが並んでいた。
「いやはや、失礼しました。ギルドの鑑定士を呼んですぐに査定致します」
オットーは、ギルドの鑑定士を呼ぶようにマリカに命じる。慌てて出ていくマリカを見送ったオットーは、ヴァルラたちの方を見る。
「いやしかし、キリー殿も錬金術が仕えるのですか。お若いのに大したものだ」
「うむ、それは私も思う。キリーは見たものを覚えて再現する能力があるようだからな。ポーション作りも一度見せただけでこれだからね」
「なんと……、素晴らしい才能ですな」
ヴァルラとオットーが話してる横で、キリーは褒められて照れていた。その頭上ではホビィがキリーが褒められて嬉しいのか飛び跳ねていた。
「おや、キリー殿の頭上のはホップラビットですかな?」
飛び跳ねるのを見て、本物のホップラビットだと気が付いたようである。
「うむ、昨日受けたクエストでな。たまたま生き残った子が居たのでキリーが飼う事にしたんだ。見ての通り、キリーにとても懐いておる」
「いや、驚きましたな。魔物の多くは懐かないものなのですが……。私も初めて見ましたよ」
ヴァルラが事情を説明すると、ポーションの時以上にオットーが驚いている。魔物は懐かないというのは、一般常識なのだろう。
「この子はホビィと名付けて可愛がっておる。だが、不思議な事にホップラビットだというのにほとんど食事を取らん。キリーと同じものを食べただけで満足しているし、寝ている間に食べている様子もない。これは私も知らぬ事だ」
「ヴァルラ様もご存じにならないとは……。いやはや、世の中まだまだ知らない事だらけですな」
鑑定士を待っている間、二人の間ではこのような会話が続けられていた。その間、キリーはずっと照れっぱなしで、頭上ではホビィが「キュイ」と嬉しそうに鳴いていた。
やっとこさ鑑定士がやって来てポーションの鑑定が行われる。ヴァルラが事前鑑定していた通り、ヴァルラの作った物は優良、キリーの作った物は良と判定された。
この結果にオットーは満足していたが、他の錬金術師たちの事もあるので、2~3日に一度くらいの納品にしてほしいと言われた。他の錬金術師の仕事を奪うのは本意ではないので、ヴァルラはそれを了承した。
これから長らく腰を落ち着ける街なのだ。無用なトラブルは極力避けたいものである。
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