第33話 感知魔法を覚えてみる
冒険者ギルドに報告した後も、キリーはずっと黙ったままだった。
(うーむ、昨日のホップラビットといい、ちょっとキリーには早かったかな?)
生き残っていたホップラビットの子どもを拾ってしまうくらいに、キリーが心優しい子だというのは分かっている。しかし、世の中にはそういった心につけ入る者も少なくはないので、ヴァルラはどうしようか正直悩んでしまった。
「うーむ、仕方ないな。採取系の依頼でもこなそうか。畑に植える薬草とか整えねばならんからな」
討伐系はキリーにはまだ無理と判断したヴァルラは、クエストの種類を切り替える事にした。畑を作ったはいいが植えるものは無いし、ホビィの餌となる植物も自前で揃えた方がいいだろうと考えたからだ。貯金があるとはいえ、お金も無限ではないから致し方のない事だろう。
「というわけだ、キリー。薬草採取のクエストを受けてみよう」
「……はい」
キリーの反応が鈍い。まだゴブリン討伐の影響が残っているのだろう。しかし、甘やかすのは簡単だが、そうも言ってられない。なので、ヴァルラはキリーをおんぶして移動する事にした。
「わっ、わわっ!」
「薬草を摘まんと今夜のご飯はないぞ。頑張らんとな」
「えっ、えっ? ええっ!?」
ヴァルラの言葉でキリーが酷く驚いている。
「ふふっ、元気は出たかな?」
「あっ、えと、その……」
「なに、私の見通しが甘かっただけだ。キリーの性格も考えずに、昔の感覚でやってしまった私が悪い。なので、採取系のクエストをこなしながら感知系の魔法を教えていこう。魔物や人、植物の種類が分かるし、極めていけば鑑定系の範囲魔法に派生していくからな。覚えておいて損はない」
にかっと笑って振り向くヴァルラの顔に、キリーは面食らっている。
「い、いえ、師匠が悪いわけでは……。師匠が僕の事を考えていろいろして下さっている事は分かっていますから」
キリーはぶつぶつと言いながら、しゅんと俯いてしまった。本当に優しい子なのである。
「とりあえず、できる事からやろう。無理をする必要はない。初めて作った割には、昨日のポーションはなかなかの出来だったじゃないか」
商業ギルドには行っていないが、昨日、キリーの作ったポーションを瓶詰めしながら、実は品質のチェックをしていたヴァルラ。相変わらずヴァルラの方の品質は優良以上だったのだが、キリーの方も良品という結果だった。まだ子どもで、なおかつ初めて作ったポーションが普通を上回る事は稀というか、ほぼあり得ない。
ちなみに品質のランクは下から廃棄物、不良、可、普通、良、優、優良、至高という八段階になっている。錬金術を始めたばかりであるなら、大体は可から下の品質になる。最初から良という評価を出せるのは、それだけ適性があるという事だろう。ヴァルラはそう言って、キリーの頭をホビィの上から撫でた。するとキリーは、さっきまでの沈んでいた表情がなくなり、えへへと笑っていた。
「よし、元気が出たところで、薬草採取を頑張ろうじゃないか」
「はい、師匠!」
「キュイ!」
キリーの元気な返事が響き渡る。それにつられて、頭の上のホビィも元気よく返事をしていた。
早速、再び街の外へやって来た。
「いいかい? 自分の魔力を自分中心に球体のように広げていくんだ。すると魔力と魔力がぶつかった時に、それに対応した反応が返ってくる」
「???」
ヴァルラの説明に目を回すように首を傾げるキリー。さすがに難しいようである。
「まぁ口で説明するのは難しいな。本当に感知魔法は感覚的な物だからな。敵意の有無だとか、動物か植物かとかでも反応が変わってくるからな。使ってみてその反応を覚えていくしかない」
「うぅ~、難しいです」
「なに、薬草なら昨日少し触っただろう? 薬草には魔力が含まれているから、感知魔法の魔力と何か反応を起こすはず。一般には敵意有りが赤、無しが青、薬草は緑、毒草は紫と言われているな」
ヴァルラの説明で少し理解できたのか、
「むむ、頑張ってみます」
キリーは気合いを入れた。
「うん、その意気だ。最初は私が見本を見せるからな」
ヴァルラは立ち止まり、集中している。キリーは手をつないでヴァルラと感覚を共有させてもらっている。しばらくすると、周りから緑色の反応がぽつぽつと感じられた。
「どうだい、分かったかな?」
「はい、なんとなくですけれど」
「まぁなんとなくでいい。感知魔法の魔力は不可視だから、こうやって感覚を共有させないとどんな魔法か教えられんのが難点だな」
教える苦労を再認識しているヴァルラだったが、キリーはそんな心配を吹き飛ばすようにあっという間に感知魔法を使いこなすようになっていた。そのおかげが薬草の収集は思ったよりも早く終わり、すっかりキリーの機嫌も直っていたのであった。
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