第12話 魔法訓練の開始

 朝食を食べて片づけを済ませると、ヴァルラはキリーを連れて外へと出る。ヴァルラの家の周りは木々が立ち込め、日中でも薄暗い場所となっていた。

 その中でもまだ明るい場所に、ヴァルラはキリーを連れてきた。

「それじゃあ、ここで魔法の練習を始めようか」

「はい、師匠」

 キリーは元気な返事をする。

「魔法を使うには、まず、自分の体内にある魔力を感じ取って自在に操れるようにならなきゃいけない。なので、キリー、私の手を取ってごらん」

 ヴァルラは最初の一歩という事で、キリーの目の前に自分の量を差し出す。キリーはおそるおそるその両手に自分の両手を重ねる。

「魔力はあると分かっても、それの使い方が分からなければただの持ち腐れだ。今のキリーは以前とは違って、自然と消費されている魔力があるみたいで、危険な状態は脱している。もしかしたら、今の記憶力がいいというのも、魔力の影響かも知れないな」

 ヴァルラはいろいろと推論を述べてはいるが、当のキリーはまったく聞けるような状態には無いようだ。魔法を習うとあって、緊張しているようだった。

「ふふっ、最初だけだ、難しいのは」

 ヴァルラはキリーの両手を軽く握る。

「今から私の魔力をキリーに流す。最初はくすぐったいかも知れないが、すぐに慣れる」

 そう言ってヴァルラが集中すると、ヴァルラの手が赤く光り出す。

「この赤い魔力は私の魔力だ。遠い祖先が魔人と呼ばれる存在でな、その影響で魔力が赤くなるんだ」

 キリーがその赤い魔力に興味津々のようだ。さっきから、赤く光る手をずっと見ている。

「さて、キリー。この魔力を君に巡らせるよ。つられて君の魔力が反応すると思うから、それをしっかり意識するんだ」

 ヴァルラが語り掛ければ、キリーが黙ってこくりと頷く。

 しばらくすると、赤い光がキリーの手のひらの中へと吸い込まれていく。それにつれて、ぞわぞわとした感覚がキリーを襲う。目を見開いて眉をひそめるキリー。必死に自分を襲う不思議な感覚を堪えているようだ。

「どうだい? 自分の中の魔力は分かるかい?」

「ん……、はい……」

 ヴァルラの魔力につられるように、自分の中の何かがうごめいているのがよく分かる。その何とも言えない感覚に必死に耐えているせいで、キリーの返事が何ともなまめかしい事になってしまっていた。

 ……ちなみにヴァルラの方も必死に耐えていた。目の前のキリーの反応があまりにも初々しく可愛いものだから、庇護欲全開にして抱きついてしまいそうになっていた。しかし、今は魔法の特訓を始めたばかり。ヴァルラは魔力の操作に集中する事を心掛けた。

 数分じっくり時間を掛けて、キリーの体内をヴァルラの魔力が駆け巡った。行ったのはこれだけなのだが、キリーは顔を赤くしている上に呼吸も荒くなっていた。自分の体内を異物が巡っていたのだから、仕方のない事だろう。

「どうかな、自分の魔力は分かったかい?」

 ヴァルラは手を離して、キリーに確認を取る。

「う、うん。師匠の魔力を追いかけるように何かが動いてた。あれが、僕の魔力なんだなって」

「ほう、そうかそうか」

 一発で自分の魔力を感知できたキリーに、ヴァルラはとても感心していた。なので、次の段階に移る事となったのだが、ヴァルラには大きな懸念点があった。

「キリーの魔力は多い事が分かっている。最初は制御ができないから、下手に魔法を使うと周りに被害が出るかもしれんな」

 そう、問題はキリーの魔力の多さだった。それ故に、初歩魔法でもとんでもない威力を出す可能性があったのだ。しかし、繊細な魔法の運用など、魔法を初めて行う人間にできるわけがない。ヴァルラは唸った。

 悩んだ結果、ヴァルラは場所を変える事にしたのだった。

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