第6話 可愛いメイド、爆誕!
「あっ……」
ところが、すぐにキリーが固まってしまった。
「うん? どうしたのかな?」
急な事に、ヴァルラが変に思って聞いてみる。すると、
「あの、これ、……どうやって、着るんですか?」
しどろもどろにキリーが答えた。その答えは意外だったのか、ヴァルラは驚いて目を丸くした上に、口まで大きく開けて固まった。
実にこれは予想外だった。
キリーは元々奴隷だったのだ。初めて見た時も、ボロボロのチュニックをすっぽりとかぶっただけのシンプルな服装だった事を、ヴァルラは思い出した。
そう、キリーはおしゃれな服を着た事がなかったのだ。これは盲点だった。ヴァルラは額を押さえて天井を仰いだ。
「ははっ、まいったな。どれ、着るのを手伝ってあげるからじっとしていなさい」
キリーに見なおったヴァルラは、キリーの肩に手を置く。キリーの身が一瞬震えたようだが、ヴァルラの優しそうな表情にすぐに緊張は和らいだ。
(奴隷の時に相当にひどい扱いを受けてきた事は、今の反応からしても容易に想像がつくな。まったく、子ども相手にどこまでむごい事をしてきたのだ?)
ヴァルラはそんな事を思いつつ、キリーに服を着せていく。ちなみに、下着の着け方すらも分かっていなかったので、ヴァルラが想像する以上に凄惨な過去があったのだろうと推測される。今はきれいな体をしているが、少年の時の体には擦り傷、切り傷、それに痣もたくさんあったのだから。
その間も、キリーの着替えは続く。下着から服、そして髪を整え、靴を履き、頭にキャップを乗せて、
「はい、これで完成よ」
ヴァルラが謎の決めポーズとともに叫ぶ。
部屋の中にはどこからともなく姿見が出現し、そこにキリーの姿を映し出す。そこに居たのは紛れもない美少女となったキリーの姿だった。
「これが……、僕?」
信じられない姿を見たキリーが、姿見の中の自分を凝視している。ほんの昨日までは、全身傷だらけで痩せ細っていた少年だったのだから、信じられるわけがなかった。
「でも、この服、……何?」
キリーは自分が着ている服が何なのか、まったく分からなかった。全体としては白と黒の二色の服だ。
まず、服は全体的に黒。ひらひらとした白い飾りがついたワンピースだ。肩辺りの袖が膨らんだ長袖タイプ。その上に、これまたひらひらのついた白いエプロンを着けている。下半身は靴下、というか足全体を腰まで覆う、貴族が穿いているタイツのような物だ。頭には白いキャップ。どう見てもメイドさんである。これをすべて夜なべで作ったヴァルラも、まったくもって変態である。
「それはな、メイド服と言って貴族の家などで働く女性が身に着けている服だよ。キリーには私の助手をしてもらうのだから、とりあえず形からという事だよ」
ヴァルラは尤もらしく説明しているが、実際のところはキリーが美少女になり過ぎたので、着せたくなってしまっただけである。まぁ、これも長くを生きる魔女の戯れの一つなのだろう。
「助手……」
「あぁ、そうだ、助手だ。なので、これから私の事は”師匠”と呼んでくれたまえ」
キリーが片言呟くと、ヴァルラは胸に右手を当て、胸を張って高らかにそう言い放つ。すると、
「分かり……ました。師匠、これから……お願い、します」
もじもじとしながら、キリーは上目遣いでこう言ってから、軽く頭を下げた。
その姿を見たヴァルラ。
(んあぁぁっ……! 可愛いっ!)
鼻血を吹いて倒れそうになるのを必死に耐えていた。この魔女、意外と可愛いもの好きだったようである。
とにもかくにも、ヴァルラにキリーという可愛らしい助手が誕生し、共同生活が始まったのである。
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