第3話 転身
「すー……すー……」
少年は眠ってしまったようだ。疲労と安心感と満腹感が一気に押し寄せてきたのだ、仕方のない事である。
「ふむ。なんとも歪な体よの。これでは魔法が使えなくても当たり前ではないか」
眠っている少年の横で、ヴァルラは座って何やら呟いている。
「魂と体がまったく合っていない。これでは持てる力が一切発揮されない。歪ゆえに体も発達しない。役立たずと評されても仕方のない事よな」
ヴァルラは少年の頭をそっと撫でると、静かに立ち上がって部屋を出ていく。向かった先は自分の研究室だった。部屋の中にはたくさんの書物や大きな壺など、様々な物が置かれている。
「うーむ、確かこの辺に……っと」
ヴァルラは魔導書の置かれた棚をゆっくりと指さしながら見ていく。今ではここの書物にしか存在していないような魔法も多くあり、ヴァルラとはいえ、魔導書なしに発動する事は困難らしい。
そうしているうちに、ヴァルラの指がぴたりと止まる。
「あった、これだな」
お目当ての書物を発見したようである。ヴァルラは書物のページをペラペラとめくっていく。
「肉体と魂を同調させる魔法はっと……、うん、この魔法か」
探していた魔法を見つけると、ヴァルラは魔導書を持って少年の眠る部屋へと戻っていく。
部屋へと戻ると、眠っていたはずの少年が目を覚ましていた。
「起きていたか」
ヴァルラがそう声を掛けると、少年は小さく頷いた。
「そうか、ならばちょっとついて来い」
ヴァルラはいきなり少年の手を引いて、部屋から引きずり出した。
「ひゃっ、冷たい」
小さいながら叫び声を上げる少年。まだ若いせいか声変わりもしていない、実にトーンの高い声である。
「これ、動くでない。きちんと汚れは落としておくものだぞ」
そう、まだ森で拾った時のままなので、少年は全身が汚れていたのである。なので、当然ながらこの後、ベッドのシーツとかも洗濯する事になるのである。
無理やりお風呂に入れられた少年は抵抗を試みるが、すっかり痩せ細ってしまった体では非力過ぎて、ヴァルラにすら力負けしてしまっていた。
お風呂から上がったが、少年はまだ裸である。このままでは風邪をひきそうだが、ヴァルラは服を着せようとはしなかった。
「少年、君の真の力を発揮できるようにしてあげよう」
ヴァルラはそう言うと、魔導書を手に呪文を唱え始めた。魔法の詠唱である。
詠唱が進むにつれて、ヴァルラの足元には魔法陣が浮かび上がり、眩いばかりの光があふれ始める。そして、それが少年の体を包み込み始め、少年の姿が見えなくってしまう。
「その力よ、真の姿を現せ! ”トルエ・フィシブレ”!」
ヴァルラが詠唱を完成させる。すると、少年にまとわりついていた光が、徐々に少年の体へと吸い込まれていく。
するとどうだろうか。光に包まれた少年の体が、みるみるとその形を変えていく。身長こそ変化はないが、体形や髪形が光に包まれる前とは明らかに異なっていたのだ。
「ふむ。その姿が、君の力を使いこなすための適切な器というわけだね。……どうやら君は、生まれる性別を間違えて生きてきたみたいだな」
「えっ……?」
光が収まってそこに現れたのは、どこからどう見ても少年ではなく少女だった。そう、奴隷だった少年は、魔女ヴァルラの魔法によって少女へと変身してしまったのだった。
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