第2話 出会い

 完全に暗くなった森の中。捨てられた奴隷の少年は、ふらふらとさまよい続ける。

 危険な魔物が住むと言われている森だが、夜になっても鳴き声の一つも聞こえず、実に静かである。人の噂なんてあてにならないものだ。

 だが、朝に食べて以降何も食べていない少年にとって、森をさまよい続けるのも限界があった。空腹のあまり、視界が揺らぎ出す。森の中で足場が悪いというのに、これではまともに移動もできない。

 その時だった。

 少年の目に、わずかな光が目に入る。しかし、もはや体力の限界を迎えていた少年は、光を見つけた事による安堵なのか、その場で意識を失って倒れてしまった。

 少年が倒れこんだ時に発生したわずかな音。それを聞き逃さない人物が居た。

「おやまぁ、こんな場所に人間とは珍しい……。見た感じ、行き倒れかな。こんな所で死なれても寝覚めに影響するし、拾っておこうかね」

 どこかゆったりした口調の、金髪美乳(巨乳ではない)の大人とも子どもとは言えない容姿の女性が、少年を自分の家まで運んでいった。


 少年は珍しく夢を見た。

 知らない誰かと一緒に、笑いながら食卓を囲む不思議な夢だった。明るく温かい不思議な雰囲気。一緒に居るのは誰なのか、分からないけど不思議と気にならなかった。知らずに涙があふれた。そして、ひと口食事を口したところで世界が暗転した。


 少年が目を覚ますと、魔法で明かりを取った部屋でベッドに寝かされていた。どうやら夢の世界で暗転したのは、現実で意識を取り戻したからのようだった。

(夢の中だけど、あんな温かい光景、経験したのは初めてだったな……)

 少年は虚ろな意識の中、部屋を見回す。

 部屋の中は装飾は少なめだが、整理整頓の行き届いたきれいな部屋だった。部屋にある窓にはカーテンも取り付けられているが、淡いピンクの装飾のないものだった。

 少年が虚ろに部屋を見ていると、部屋の入口の扉が突然開かれた。その手にはスープの入った皿を乗せたトレイが持たれていた。

「おや、起きたかい?」

 女性が声を掛けるが、少年は反応が薄い。

「体は瘦せ細ってるし、身なりもボロボロ。役立たずと判断されて捨てられた奴隷ってところかね」

 推理を口にする女性。それを聞いた少年の体が一瞬震える。

「……当たりか。心配するな、私は君を捨てたりはせぬ。ちょうど助手が欲しいと思っておったところだし、ここに住むといいぞ」

 ベッド脇のテーブルにスープを置くと、女性は少年にそう声を掛けた。

「口が利けぬか。よほど辛い目に遭ってきたんだろうね。とりあえず、まずはそれを飲むとよいぞ。私は用事があるから、いったん失礼するよ」

 と、いったん部屋を出ようとした女性だったが、出る瞬間に足を止めた。

「私はヴァルラ。この森に住む魔女といえば、分かるかね」

 少年はほとんど反応を見せなかったが、かすかに頭を縦に振るのが見えた。

「そうかい。とにかく、今は体力をつけなさい。何も心配いらないからね、ゆっくりでも構わないさ」

 そう言ってヴァルラは、改めて部屋を出て行った。

 少年はしばらく、ヴァルラの出て行った扉を眺めていた。やがて、ぐぅっとお腹が鳴ったので、ヴァルラの持ってきたスープを口につける。ちゃんとスプーンは使えるようだ。

「……おいしい」

 少年は、無我夢中でスープを飲み干すのだった。

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