魔女と奴隷少年の出会い
第1話 役立たずの少年
ここはどこだろうか。
薄暗い森の中を、薄黒く汚れた少年がさまよっている。
彼はなぜこんな所に居るのだろうか。どうして一人でさまよっているのだろうか。
時間は少しさかのぼる。
森から少し遠い場所にある、大きな街。その一画に奴隷を扱う商人の店があった。奴隷商とは、男女を問わず、身内が居ないなどの理由で行き先を失った人間を奴隷として拾い、使い勝手のいい労働力として売り捌く商人の事である。
その奴隷商のある日の事。
「はっ、こいつは鈍くさすぎて何の役にも立ちやしない」
「肉体労働もできねぇくらい細っちょろいし、かといって魔法も全く使えやしねぇ。よくこんなんが今まで無事に生きてこられたもんだなぁ!」
少年を取り囲むように、奴隷商の従業員や他の奴隷が壁のように立って、少年を罵っている。罵られている少年も、まったく抵抗の素振りもなく、ただただ黙って罵られ続けていた。
「このような者は、我が商会にとって汚点となりかねませんな」
従業員の中でも特に偉そうな人物が、少年をギラリと睨む。だが、少年はそれにも虚ろな表情で、まったく反応を示さなかった。
その様子を見かねた偉そうな男は、
「もういいです。このままではただの穀潰しですからね。誰か、こいつを森に捨ててきなさい」
信じられない言葉を放った。だが、この世界では役に立たなければ見捨てられる事など普通の事なのだ。何の役にも立たないのであれば追い出されてしまうなど、大なり小なりそれなりに起きている事なのである。
その言葉を聞いた奴隷の一人が、少年の腕をつかんで引き摺っていく。それでも少年は声を上げる事はなかった。もう抵抗する気も残っていないようである。そして、されるがままに荷馬車に放り込まれた。
街を出て数時間、運搬の仕事の傍ら、街道近くにある森林へ少年は連れてこられた。
「ここならどっちの街からも遠い。森の中には恐ろしい魔物も居るし、そいつらの餌となって、最期くらい役に立てや」
男はそう言って、少年を引きずって森へと入っていく。少年は相変わらず無気力で、うめき声すら出てこなかった。
「まったく、薄ら気持ち悪い奴だな。でも、これでお前の顔を見なくなるかと思うと清々するぜ」
ある程度奥に入ったところで、男は乱暴に少年を投げ捨てた。
「そういや、この森には魔女が住むとか言われてたな。もしかしたら、そいつに拾ってもらえるかもな。がっはっはっはっはっ!」
男はそう言って、街道の方へと戻っていった。最後に、
「生きていたらまた会おうな」
とだけ言い残して。
こうして奴隷の少年は、魔女が住むと呼ばれる森に置き去りにされたのであった。
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