第21話
☀ ☀ ☀
『大丈夫。今学校なんだけど、終わってからでもいいかな?』
待っていた返事が早くも来て、さらにその文面に飛び跳ねるほどの嬉しさを感じる。テーブルの上に開いていた課題を閉じ、嬉しさを全面に表している動物のスタンプを送り、その後に送られてきた時間と場所を確認して鈴音はスキップをしながら自分の荷物が置いてある和室へと向かった。
鞄を開けて、服を取り出す。どれが一番可愛いか、悩んだ。
ん~~と悩みながら時計を仰ぎ見たらもう時間が迫ってきていることに気づき、急いで組み合わせた服を身に通す。そして姿見で全身の確認をし、最後に洗面所で髪型に変なことろはないかチェック。終わると自室に籠っている裕に声をかけて家から飛び出していった。
楽しみ、楽しみ・・・・・・!!思わず口ずさんでしまうほど、鈴音の胸はわくわくと打っていた。
「おまたせ。ごめんね」
声をかけられた方に顔を向けると、そこには学生服姿の研治が立っていた。まるで彼の周りだけが幻想の世界のように、輝いて見える。ドキッと大きく打った心臓は、そこからドキドキと速く、熱く脈を打った。
鈴音に向かって駆け寄ってくる研治は顔は小さく足は長く、八頭身とモデルも真っ青なスタイルの良さを晒していた。黒く艶のある前髪をゴムで止めていて、一見可愛らしい髪型なのに、とてつもなく雄みを感じる。それは、額を見せたことによってきりりとした眉が見えるからかもしれないと思った。
「だ、大丈夫、デス・・・・・・」
思わず片言になってしまったが、研治は笑うことなく優しい笑顔で返してくれる。そして研治がよく行くという喫茶店へ連れて行ってもらうことになった。
カランと涼やかな音と共に味のある木製の扉が開かれる。すると奥から『いらっしゃいませ』という落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
扉を押さえる研治の腕の下を潜って店内へ足を踏み込むと、なんと周りの客や店員、その奥の厨房の人間までもが研治に視線を注いでいた。
視線を注がれている当の本人は、全く気にせず鈴音を日当たりの良い席までエスコートしてくれる。
店内の人間は全員、研治の美貌に目が釘付けになっていた。
注がれる視線の中心にいることに多少居心地の悪さを感じつつも、それをないものとしている研治に促され、正面の席に腰を下ろすとすぐに店員が水とおしぼり、それとランチのメニュー表を持って自分たちのテーブルへと歩いてきた。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルでお知らせ下さい」
そう言った店員の声は不自然に高く、それに震えていた。きっと研治ほどの美形を前に、緊張したのだろう。店内は女性客が占めており、彼女らの瞳にはハートマークが見えた。周りに意識を向けていると、向かいから『何にする?』と低く響く声で問われ、急いでメニュー表から選んだ。
その喫茶店はサンルームを思わせるような造りになっていて、白い枠と透明なガラスが午後の穏やかな時間を楽しめそうな見た目である。窓際に置かれた植物たちも皆どれも生き生きしており、上からつるされている小ぶりなシャンデリアもセンスが良い。とても、居心地の良い店だと思った。
研治はブラックコーヒーをゆっくりと飲んでいて、それに比べスプーンでクリームを掬って食べている自分は子どもっぽいと自覚した。コーヒーカップを口に付ける格好は研治に似合っており、ビターな香りも大人の雰囲気をさらに助長している気がする。鈴音が美味しいと顔を緩ませると、目を細めて口に弧を描くその表情がすごく、エロティックで、鈴音は顔が熱くなるのをアイスクリームで冷やそうと頬張った。
研治の、その目が好きだ。楽しんでいる鈴音を見て、まるで心底喜ばしいというような、元気よく遊ぶ子どもを微笑ましく見るようなそんな、目。研治に細められた目で見られると、鈴音の心臓はより一層大きく自己主張するのだった。
自分の分まで払って貰い恐縮していると、ふわりと頭に大きな手が乗せられる。そして数回わしゃわしゃとかき混ぜられた後にその手は離れてしまった。
なんだか、一気に距離が近づいたみたい。自分のことを意識してはくれないだろうかと思ったが、鈴音は店内に入ってきたときのことを思い出し首を小さく振った。最初に声をかけてきた女性の店員は鈴音から見ても容姿がとても整っており、緩くウェーブがかった茶髪がふわりと空調による風に靡いて良い匂いを振りまいた。研治の前でとても緊張していたのだが、そこが逆に可愛らしかったのか研治は離れていく彼女をその姿が見えなくなるまで目で追っていた。
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