第14話
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「やった!裕兄ちゃんといっしょに寝れる!」
風呂から上がると、冷たい麦茶が入ったコップを差し出してくれた裕に了承をもらい、鈴音は喜びに顔を綻ばせた。
昔は互いの家に泊まりに行った時や祖母の家などに泊まったときなどによく布団を並べて喋りながら寝たもので、互いに年をとっていく中で受験などの問題で会う機会も減っていった。久しぶりに会っても宿泊を伴わないことが多かったのだ。それに、例え宿泊を伴ったとしても親の前では子どもでもないのに『裕兄ちゃんと一緒に寝たい!』などと言うことはできるはずがない。
ダメ元で言ってはみたものの了承は得られないと思っていたが、予想外にも優しい笑顔で『いいよ、久しぶりだしね。たくさん話そう』と言われた。甘く甘く、自分を蕩けさせてくれる裕。一人っ子である鈴音にはこうやって甘やかしてくれる存在はいなかった。両親は二人とも働いており、休日の少ない時間しか共に過ごすことはできなかったからだ。
だからこそ、裕に対する執着の気持ちが強いのかも知れない。
だからこそ、そんな大好きな裕と時間も空間も共有できる研が嫌いなのかもしれない。彼の置かれている状況が羨ましくて。
次に入ってくると言って裕が脱衣所へ向かっていった。リビングには研はおらず、おそらく自室にいるのだろう。さっきの口喧嘩を思い出した鈴音は『どうだ!』と高笑いしに行こうと階段を上って行った。
扉を開けると、そこは大きなベッドに大きな本棚だけというごくシンプルな部屋だった。普段のダサい格好を見ていると部屋の中もごちゃごちゃとしているに違いないと思っていたが実に意外である。当の研は机に向かっていて、音楽を聞いているのか入ってきた鈴音には気づいていない様子だった。部屋の中の暑さからか、Tシャツを肩まで巻いておりその顔に似合わない逞しい腕を惜しみなく晒している。
なんだよ、その腕・・・・・・。ダサいくせにそんな腕してんな!と理不尽な言葉が頭に浮かんだ。
気づかれないようにそろりと背後に近づいていき、そっと机の上を覗くと研が集中してやっていたのは学校の課題らしきもの。それを見て『そうだった』と自分も大量の課題を持ってきたのだったと思い出した。リビングに戻ってやり始めようと思い後ずさると、踵がそこにあったゴミ箱に辺り鈍い音を立てた。
「いった!」
「ビックリしたー・・・・・・鈴音か。オイ、何勝手に入ってきてんだよ」
音と鈴音の悲鳴に驚いたのか、研が身体を捻りこちらに顔を向けてきた。相変わらず暑苦しい前髪と分厚いメガネで表情は見えない。だが声色からして鈴音を心配しているようではなかった。
「いいじゃん別に。どんな部屋かな~って覗いただけだし」
むっとした鈴音は足に当たったゴミ箱を蹴り飛ばし部屋を出ようとしたが、ここに来た目的を思い出しまた机に向き直った研ににやりとした笑みを浮かべた。
「僕、今日裕兄ちゃんと一緒に寝るんだ~。いいだろ」
「あっそ、別に」
「~~!!」
精一杯自慢してやったのに研から返されたのは素っ気ない態度。その態度にムカついた鈴音は何も言い返せず、そのまま扉を凄い勢いで閉めて部屋を出ていった。バタンッ!と大きな音を背後に聞きながら、態と足に体重を掛けて階段を降りる。
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