第7話


「わっ!」

「大丈夫ですか?」

 手から袋が落ち中身も出てしまったが、先に尻餅をついてしまった相手に手を伸ばし大丈夫か尋ねる。すると、どこか聞いたことがあるような声が聞こえた。

「だいじょうぶで――って、・・・・・・へっ!!?」

 あれ・・・その声は鈴音・・・って危なっ!思わず名前呼んじゃうところだった・・・・・・そう思いながら、研の手を借りて起き上がった鈴音が無事だとわかり、ほっと胸をなで下ろす。

 無事に立ち上がったので手を離そうと引いたが、何故か力を込められこちらからは離せない。

「・・・・・・ん?」

「あっ・・・!いや、すみません!お兄さん、イケメンですね!!」

「へっ!?」

 メガネを掛けていないためどんな顔をしてるのかわからないが、鈴音が突拍子もないことを言い出したので思わず変な声が出てしまった。

「あっ!お兄さんの買ったものが・・・・・・すいませんっ!・・・・・・あれ?だしつゆ・・・・・・」

 パッと手を離されたかと思うと手を離したときに転がったのだろう、買ったつゆのボトルを拾ってくれたのか背後でしゃがみ込んでいる鈴音を振り返りお礼を言おうとすると、袋から投げ出されていたつゆを元通りにして手渡してきた鈴音がそのままガシィ!と手を掴んできた。

「僕、これからつゆを買いに行こうと思ってたんです。これ、お兄さんの落としてしまったの僕のせいだから、これは僕が貰います。その代わり、今からお兄さんの分買いに行きましょう!僕が払います!!」

 矢継ぎ早に言われ、そのまま手を引っ張られて歩き出す。

 話を全然聞かない!鈴音はいつもそうなのだ。行動一つ一つが素早く、だが人の話を全く聞かない。鈴音の行動からして、おそらく彼が買おうとしているのは天野家へのつゆだ。だとしたらもうそれは研が買っているので、さらに買ったら二本になってしまう。そうするとまた賞味期限以内に使うことができず無駄に・・・・・・強引に引っ張られ歩きながらぐるぐると頭の中で考え、もうどうすれば良いかわからなくなり、研は一先ず鈴音を引き留めた。

「どうしたんですか・・・?」

「え、と・・・・・・これ、すぐそこの天野ン家に持っていくやつで、その・・・急がないといけないんだ」

 わっ、しまった!と思ったが、もう遅い。テンパって“天野”というワードを言われてしまった。だがまだ自分が研だとバラした訳でもないので、セーフだろう。

 このまま掴まれている手を抜いてフェードアウトしよう・・・・・・と思っていると、研を掴む手にさらに力が込められた。

「お兄さん、裕兄ちゃんの友達!?僕、今日からそこに泊まるんだ!」

 はぁ!!?と思わず裏返った声が出そうになる。

 泊まるだってぇ!?ただでさえ苦手な鈴音が来ただけでもしんどいのに、これからあの二人の愛の巣に宿泊するなんて・・・・・・期間もよくわからないし・・・・・・。最悪だ、と研はげっそりしながら、またもや『じゃあ一緒に行こ!』と行動の早い鈴音に腕を取られ引きずられるのだった。


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