第6話
☆ ☆ ☆
急がないと・・・急がないと麺が不味くなる・・・っ!
研は袋に入れられたつゆを手に持ち、家に向かって急いでいた。あのまだ遠くに見える角を曲がったらあとは家だ・・・というところでポケットから振動が伝わってくる。
速度を落し、歩きながらポケットから携帯を取り出すと、それは裕からだった。何か追加で買うものがあるのかな・・・と思いメールを開くと、なんとここに鈴音が来ているらしい。
「マジか・・・・・・」
鈴音というと、嫌な記憶が蘇る。
鈴音と研は従兄弟同士だが、厳密に言うと研とは赤の他人だ。裕との従兄弟であり、自分とは何の繋がりもない。
鈴音を苦手だと感じる理由はそれだけではなく、何故か初対面時から睨まれ裕を独り占めされることもその原因だった。研と二人きりのときは牙を剥いたように毒舌のオンパレードのくせに、裕がいるときはわかりやすく猫を被って裕にかまってもらうのだ。
鈴音は裕のことが好きだ。それは態度を見ればわかる。
研にとって鈴音が驚異なのは、彼には研にはない『可愛さ』があることだった。鈴音は小さな頃から女の子と見違うほど顔立ちが可愛らしく、それは成長した今でも健在である。そんな可愛さで裕に迫られたら・・・・・・研には一溜まりもないだろう。裕と恋人となった今、その座は死守しなければならない。せっかく誰にも邪魔されずに裕と過ごせるように二人暮らしになったのに、また邪魔をしてくるなんて・・・と、研はメールを読みながら眉根にしわを寄せた。
それに裕からのメールに『他人のフリを』と描かれていることも、混乱を呼んだ。
普段はビン底眼鏡に前髪を下ろしている状態だが、今はそれらはなく顔を隠しているものは何もない。ド近眼なことからどれだけ鏡に顔を近づけても、自分の顔はぼんやりとしか掴めず一体自分はどんな顔をしているのかよくわからなかった。
だが、おそらく自分は醜いのだな、と研は思っていた。
研は、昔から人との付き合いができない。今でもよく覚えているのは幼稚園でのこと。自分の周りには人は寄りつかず、声をかけようとしても避けられていた。
自分の根暗にさらに拍車がかかったのは小学校に入学してすぐのことだった。好きになった女の子に声をかけようとしたところ、その子がきゃっ!と悲鳴を上げて逃げて行ってしまったのだ。そのショックは大きかった。
それから人の目が怖くなり、前髪を伸ばしていたら目が悪くなっていって、今ではメガネも顔を隠す一役を買っている。
そうか・・・。研は裕の言わんとしていることがなんなのか、わかったような気がした。
おそらく、今の何も隠していない自分と研が同一人物ということが鈴に知られたら、醜さにさらに研が嫌われてしまうことを心配しているのではないか。
きっとそうだと考えていると、角を曲がった瞬間あちら側から走ってきた人物と思いきりぶつかってしまった。
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