第4話

 僕は、あの日のことを思い出すたびに不思議な気持ちになる。「彼女はまだ生きてるんじゃないか」とか、「彼女は本当に人間だったのか」とか、そんな疑問を覚えた。思えば彼女は謎の多い少女だった。そんな10年前に失踪した少女のことを考えながら、あの日、彼女と最後に会った神社に足を運んだ。


 神社の池には静かに水が流れていた。水に映る僕の顔は、大人になっていた。水面にもう一人の顔が浮かんだ――


 「矢野さん!」

水の中に手を伸ばす。

「あなたの後ろにいますよ。湯川君」

後ろを振り向くと、10年後もほとんど変わらない姿の矢野さんがいた。久しぶりに見たからだろうか、思えば、もともと大人びた顔立ちの少女だったなと思った。僕は混乱して、見とれてしまい黙り込んでしまった。

「うふふ。元気そうで何より。そして、みんな生きてる。それが、どれだけ恵まれていることか」

「どういうことだよ。矢野さんは生きてるの?幽霊なの?」

「そんなこと、どっちでもいいじゃない。でも私と同じ場所に来るにはまだ時間がかかりそうね」

「矢野さんと同じ場所ってどこのこと?」

「そうね。空の向こうよ」

そういうと矢野さんは色褪せたワンピースをひらひらとさせながら、両手を広げた。夕日に照らされた彼女には影がなかった。体は妖しく透き通り、彼女は輝きを放ちながら、天へと舞い上がった。

「また会いましょう」


 僕は、驚いて何も言えなかった。彼女は、いったい何者だったのだろうか?今の光景も幻だったのだろうか。僕はただ、彼女の幻に思いを馳せていた。


 綺麗だが謎の多い彼女との思い出は、儚くもかけがえのない日々だった。そんな純粋だった少年の日のノスタルジアは、天国にも持っていきたいと思う。空の向こうで待っているはずの彼女と語り合うために。

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不思議な別れと再開の約束 オイスター @foolish_oyster

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