013 戦闘開始

「ララちゃん、って言ったよな。きみは悪いけど、一緒には行けない。危険だ」



 システムを会得していないただの人間に、それも女子高生に、ここから先は危険にすぎる。今の俺では二人を守るので精一杯だ。戦うことのできない人間を連れていくわけにはいかない。


 しかし、そんな理屈を簡単にわかってくれるような相手ではなかった。



「そんな——そんな危険な場所に二人を送れるわけないでしょうッ!?」



 まるで今度は彼女自身が二人を守ると言わんばかりに、少年二人の腕を抱き締めて、少女が怒声を放った。

 全身をわなわなと怒りに震わせて、目に涙を溜め、視線で射抜くように俺をめつける。



「こんなにボロボロなんだよ!? これ以上ケガして死んじゃったらどうするの!? アンタは確かに恩人かもしれないけど、それでも二人を危険な目に合わせるなら……わたしが、ここであなたを――」



 その先の言葉は、少年たちによって遮られた。

 肩に手を、もう片方は頭に手を置いて、少年二人が笑う。



「ありがとな。でも心配すんな。おれらがおまえを置いていくわけないだろ」

「その避難所ってのが安全だって保証はねえし? 世界のどこを探したってオレらの隣ほど安全な場所はねーよ」

「ということで、だ。湊さん。手伝ってやるから、こっちの意見も譲歩してくれ」

「それと、戦い方もレクチャーしてくれよ」

「あ、アンタら……ほんっとに、バカなんだから」



 目元の涙を拭って苦笑する少女と、それを見て笑みを浮かべる少年たち。

 その絵面が、いやというほどに輝いていて、見ているこちら側が惨めになってくる。

 

 友達、か。

 一瞬、走馬灯のように過去の情景が掘り返される。

 幼い頃は、友達がたくさんできると信じてやまなかった。いや、実際に多くいたのだろう。その頃は。


 いつからか、人との距離感を掴めずに俺は一人、教室を出て行った。


 羨ましいな。ああ、とても羨ましいよ。

 俺にはないものを、彼らはたくさん持っている。その輝きを、素直に尊いと思った。だからこそ、死なせたくないし失わせたくないとも思っているのは紛れもない本心で。

 


「引く気はないぜ。呑めないってならここでお別れだ」



 金髪の少年が俺の考えを見透かしたかのように言った。

 仕方がない。

 俺はイメージを巡らし、二丁拳銃を生み出した。黒と白。人の手にはいささか大き過ぎる拳銃を手に取る。



「っ」

「誤解だ。そう身構えるな」



 警戒を始めた三人を安心させるため、銃口を下に向ける。そしてそれを、俺は少女に差し出した。



「見た目に反して反動はほぼないから女の子でも扱える。装填数は一五発。安全装置はここで、魔物以外に銃口を向けないこと。マガジンポーチは太ももにつけて」

「え、え、え」

「弾倉がなくなったら言ってくれ。すぐに創るから」



 手渡された二丁拳銃を持ってあたふたする少女。それを横目に、俺は少年らを見る。



「なにか要望は?」

「よ、要望? 武器……って、ことか?」

「初心者は剣とか武器を使ってのレベル上げが一番いいんだ。心理的にも楽だろ」



 六法を扱えるようになった玄人は素手になったり逆手持ちのナイフになったりと、印を結ぶのに妨げにならないような武器を選ぶようになる。地力で殴るしかできない初心者は、リーチの長い武器を使うのが一般的だ。


 

「自己強化できない今、素手でたおせるのは精々がゴブリンだ。それ以上になると生身ではたおせないし、痛々しいことになるぞ」



 全身を針で覆われている魔物や毒に侵されているようなヤツはザラにいる。だからある程度、初心者のうちから武器の扱いを学んでおいた方がいいのだ。拳に魔力を張らせて殴り斃すともできるが、一般人には心理的にキツい。

 


「つってもなあ。咄嗟に思いつかねえし……」

「……なんか、オススメで」

「じゃあ、オーソドックスなので」



 俺は鞘に収まった二本の刀を創造し、それを二人に渡した。



「おお……サムライソード……っ!」

「接近戦になる。ビビって逃げるなよ」

「そこは心配しなくていい、湊さん。喧嘩慣れはしてるから」

「こうみえてオレら無敗だからよ。安心していいぜ? 湊」

「お、おう……」



 いきなり下の名前でタメ口なのは、まあいいだろう。敬われるようなキャラじゃないし。



「じゃあ急ごうか。えっと……」

「おれはユウキ。このチャラいのはウユカ。んでこのベレー帽はララ」

「よろしく」

「さっきはごめんなさい。足手纏いにならないように頑張るから。……あと、このポーチって太ももじゃないとだめ?」

「ダメだ」



 ミニスカートから覗く健康的な太ももにしがみつくマガジンポーチってのがいいんだろ。ガーターベルトも欲しいところだ。

 


「ま、まあいいけど……なんか視線が気になる……」

「……。これから魔物を生み出す〝眼〟を潰す。三人とも俺がカバーできる五〇メートル範囲から出ないように動いてくれ」

「「「了解」」」



 タイミングよく前方から現れた魔物の群れ。十中八九、この先に居座る〝眼〟から排出された魔物だ。

 数はいささか多いが、ちょうどいい。三人の養分となってもらおう。

 


「さて、行こうか。戦闘開始だ」




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