第4話
だから四人は今、監督の執務室に向かっている。
大事な試合の前夜に。
このことは、ほかの部員には内緒にしてあった。
明日の試合に出るメンバーを動揺させてはならない。彼らには落ち着いて実力を発揮してもらわなければならないのだから。
――だから俺たちがやるしかない。
その一念で四人は結束していた。
もし、明日の試合に負ければ、そこで三年制は引退だ。
それまでにこの疑惑を解決しておきたい。後輩たちに問題を残していきたくない。試合に出られない三年が、後輩たちのためにしてやれることといえばこれくらいだ。
クラブハウスの中に入り、廊下を歩いた。土埃の殺伐とした匂いがする。サッカー部の部室の前を通過した。
龍太は、ふとサッカー部の盗難騒ぎを思い出した。
今年の春からサッカー部で、部員の私物の盗難が相次ぎ、ちょっとした騒ぎになったのだ。生徒が勝手に犯人捜しをはじめて、「うちの子が濡れ衣を着せられた!」と、親が学校に押しかけてくる騒動になった。サッカー部の雰囲気はどんどん悪くなり、とうとう試合をボイコットする選手や途中退部者を出してしまった。
ラグビー部も同じようになってはならない、と龍太は心に誓った。
チームを不和に導く疑惑の芽は、早いうちに摘んでおくべきだ。
これでたとえ監督に疎まれることになったとしても、メンバーを外れた自分たちに、もはや失うものはなにもない。
執務室のドアの小窓から、明かりが漏れていた。近づくと、パソコンのキーを叩く音が聞こえた。監督はまだなにか作業をしているようだ。明日の試合相手の分析をぎりぎりまでやっているのかもしれない。
大島がノックをして「お話があります」と声をかけた。
山端監督がドアを開けた。龍太たちを見て太い眉を上げる。
「え、君たち、まだ帰ってなかったのか」
「あの、赤井のお父さんが持ってきた小切手のことでちょっと……監督におききしたいことがあります」
大島が、少しだけ震える声で口火を切った。
戸惑いの表情をうかべていた監督の顔が一瞬こわばり、やがてふっと脱力して、覚悟を決めたように一度深く息をついた。
「……わかった。じゃあ、今は仕事の途中だから、ちょっとだけそこで待っててくれ」
龍太たちがドアの外で待つ間、中から話し声がもれてきた。監督は携帯でどこかへ電話をかけているようだった。
やがて、監督は龍太たち四人を招き入れて座らせた。
六畳ほどの部屋には、生徒の名簿や資料の入った大きな本棚が壁付けされていた。長机の上には大型のモニターとノート型パソコン。椅子は二脚しかなかったので、膝の悪い龍太が座らせてもらい、残りの三人は床に腰をおろした。
監督はひじ掛けのついた椅子の上で、両手を組み合わせている。
「じゃあ、まず相川の家の話をしよう」
突然、三年の相川陽平の名前が出た。赤井と一緒に先発のフランカーに選ばれた選手だ。四人はきょとんとなった。
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