第15話

 さっきの映像が本当のことならば、猫乃は死んだことになる。私の悪口を言うからこういうことになるんだ。春雨がいつ気付くか楽しみだな。

「ねえ、春雨が何してるかわかんないの?」

「その春雨さんとやらがどういう生活をしているか知りたいという意味であるならば、俺は知らない。だけれど、知ることはできる。彼女との繋がりがあるならば、パスは繋がっているので、目を開くことはできる。しかしながら、彼女のことを今知るのは名案ではないと言える」

「長々と何言ってるかわかんねぇんだけど」

「ああ、理解ができない? それならもう少し知能レベルを落として話そうか。何をしているか知ることはできるけど、今知らなくても良いと思う」

「あんたさ、いつもその短さで喋ってくんない?」

「善処しておこうか」

 善処じゃなくて、短く喋れってことなんだけど! 何言ってんだかさっぱりわかんないんだから、簡潔にまとめろ。長々話しても意味わかんねぇっての!

 春雨が何してるかわかるけど、今はわからないほうが良いって意味もわかんねぇし、何か知ってんのか?

「ねえ、春雨について何か知ってる?」

「俺に知ってるかを尋ねてくるとはな……。答えは、知ってる。だけれど、あなたに必要な情報ではない。彼女にとってあなたはどうでもいい存在であり、観察して楽しむ檻の中の珍獣という認識やね。無様で滑稽で、見ていて笑いを誘う。人を笑わせるのにも才能が必要やから、あなたは才能に溢れた人間。俺もあなたを見ていて面白い」

「へえ。神に面白いって言ってもらえるって、私、すごいじゃん」

「すごいすごい」

 景壱はにっこり笑って私の頭を撫でた。褒めているつもりっぽい。笑顔がどことなく作り物のように見えるけど、彼の存在自体がなんかお人形という感じだから、本当に作り物って感じ。

 あ、こういうネタ良いじゃん。投稿しておこう!

 鉱物の瞳を持つ人形の物語ってウケそうじゃん。ファンタジーだし。私の得意分野だ。

 思いつく限りのショートストーリーをスレッドにまとめて、タイムラインに投稿した。すぐにいいねがつく。既読感覚で押してるだけだな。そんなんで媚び売ってるつもりか? きちんと読めよ。いつもいいねするだけじゃん。たまに返信してきたと思えば、的外れな意見でクソ萎えるし。こういうのは通知の邪魔。死んでほしいな。

 スマホを弄っている私の視界に急にタブレットの画面が入ってきた。

「急に何?」

「知りたいか聞かなくて良いと言ったやろ? ごらん」

 画面には見知らぬ女が映っている。見るからに陰キャって感じ。

 この服、着こなしをミスッたらババァに見えるとこのやつじゃん。すっごいババァ。ここの服可愛いから私もよく買ってるけど、こんなにブスが着たら服が可哀想。服に着られてるように見えるわ。

 部屋の中をよく見たら、私の作った本が並んでいた。私が試しに作ったハンドメイドアクセサリーも置いてある。私のファンかぁ。

「で、私のファンがどうかした?」

「この人、あなたの作るものが好きみたいやね。投稿にすぐいいねもするし、作品も買ってる」

「どこの誰かわかんないけど、わかってるじゃん」

「あなたは、この人に対して邪魔だと思った。死んでほしいと思った。今、この瞬間もこの人はあなたの投稿した作品を読み進めているというのに。先にいいねするのは、読むスピードが遅いから投稿を見失わないようにするため。新しい作品が流れてくるのが嬉しくていいねをし続けている。本当に応援の気持ちだけで『いいね』と示している。ほら、今、あなたの作品を読み終わり、感想を送ろうとしている」

 女のスマホ画面には、私の投稿したショートストーリーが映っている。引用機能を使って感想と共に投稿をするつもりらしい。

 月宮さんの作品は、と書かれたところで、映像にノイズが走る。そのまま画面は真っ暗になってしまった。

「今良いところだったのに、何で消すんだよ!?」

「俺が消したんやないよ。……残念なことに、あなたにこの人から感想が来ることは無さそうやけれど」

「何言ってんの? 今書いてたじゃん」

「あなたは、この人を邪魔だと思った。死んでほしいと思った。……あなたの願いは届く。見えない呪力のパスが繋がった相手に、必ず。彼女が無視をすることは……これに関しては無い。それらに対して強い感情の応えが見える場合は」

 透明度の高い紺碧色の瞳が更に透けて見える。

 その目に見られるだけで、歯がガチガチ鳴るほどの寒さと恐怖を感じた。なに、これ……? 怖い。手が震える、全身が震えてる。寒い。

「……かわいそなのは、この子にござい。心から応援していたクリエイターに裏切られ、何も知らぬまま、まだまだ長い生の道を閉ざされし、憐れな魂。憎しみ恨みが積もり、それらを形作るは憎悪のみ。真実から目を逸らすことは容易にできる。嘘で塗り固められた虚構のほうがあたたかくて住み心地も良いかもしれない。あなたにとっては、嘘か真かはどうでも良いかもしれない。自分が褒められて、ちやほやされる世界なら、なんでもいいかもしれない。お世辞でもなく、あなたを褒めようとした人は、あなたの身勝手な願いで、時間を奪われた。あなたがどう思うかは勝手やけれど、行動には必ず何かしらの理由が伴う。例えそれが既読の証としてのいいねだとしても、後で読もうとする意味でのいいねだとしても、あなたにとってはひとつの『いいね』でしかない。あなたがその画面の向こう側にいる相手のことを何も思わずにいるならば、数字の一つでしかない。……さて、あなたの時間をあなたがどう使うかは、あなた次第。真実を知る代価は時間だと、繰り返し言っておこう。そして、時間は有限だということも。願いを叶えるには時間が必要だということも努々お忘れなく。それではまた、次の雨の日に」

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