第14話

「代価は時間でしょ? それならいちいち聞かなくて良いから教えて」

「ククッ、時間は有限やからね。後から文句を言われないように確認は必要なんよ。ま……、その頃には、文句を言う口すら無くなる。死人に口無し、ってな」

 景壱はタブレット端末を私に差し出す。

 その画面に映っていたものは、猫乃の姿だ。一度しか見ていないけれど、部屋に置かれた創作キャラのグッズでわかる。こんなにヘタクソなイラストでグッズ作って売れるわけないだろ。バカじゃねぇの? 在庫が大量にあるじゃん。ざまぁ。

 この程度のイラストで私の描いたイラストを評価すんなっての!

 私の創作活動の邪魔だし、誹謗中傷もしてきたくらいだ。さっさと死んじまえ!

 ──シュッ!

 金属が空気を裂く音がした。私がまばたきをしている間に、画面は赤く染まっていた。

「ハイハーイ! 呼ばれてなくてもじゃじゃじゃじゃーん! あなたの親愛なる隣人、夕焼けの精霊のこやけでございます! 本日はこちらのお部屋で人間の首を刎ねとばしてみました! あはあは!」

「な……っ」

「こちら、刎ねたてピチピチ生首でございまーす! どうでございますか? 視聴数もうなぎのぼりに違いないでございますね!」

 アカBANされるに決まってんだろ!

 グロは地雷なんだよ。何見せてんだクソガキ!

 だけど、前のように吐くことはない。きっと非現実的すぎて脳の処理が追いつかないんだ。今だって冷静に考えられるくらいだ。画面越しにホラー映画見てるってこと!

 夕焼けの精霊は身の丈以上ある大鎌を手に携えていた。刃先は血にまみれ、まだ赤みの強い血が滴り落ちている。首を無くした体が地面にどうっと倒れる。

 まばたきをしている間に、部屋には誰もいなくなった。今のは夢か幻か……とは考えなくて良い。現実だ。部屋は血で汚れたままだ。

 ホラーのショートストーリーを書くなら今のタイミングだ。思いつく限りの言葉を書き殴り、投稿した。

 すぐにいいねとシェアが来る。返信も入った。

 月宮さんホラーも書けるんですね!こういうの好きです!

 普段は全く反応無いくせに、こういうのは反応するのかよ。グロとかホラー好きなやつって頭おかしいんじゃねぇの? 嫌だなぁ、懐かれたら面倒臭いことになりそう。

 だけど、けっこう反応良いんだよね。私が普段書いてるファンタジー小説よりもうんと読まれてる感じがするし、感想だって来る。何でこんな気持ち悪い話にいいねが来んのかさっぱりわかんね。資料を読み漁って書き上げたものより、パパッと書いたもののほうが読まれるってなんか腹立つな。

 私は普段ファンタジー小説を書いていますので、そちらのほうが面白いのでよろしくお願いします。

 よし、これで誘導できたな。ついでに在庫が1、2冊の本動かねぇかなぁー。いい加減に売れてほしい。まとめ売りしてんだから、買えよな。

「せめてお礼くらいは言うたらいかが? 俺が言うようなことやないけど」

「何で? 誰に? 私が面白い話を無料で提供してあげてるんだから、私に感謝すべきでしょ? あんたってたまに変なこと言うよね」

「……なるほどな。俺はまた知らないことを知れた。ありがとぉ」

「どういたしまして? それよりさ、夕焼けの精霊は私らが見てるのわかってたよね?」

「サア? 向こうは精霊と言えど、土地神でもあるから……見られてることを察知して喋っただけかもな」

 土地神? なんかの資料で見たことあるような気がする。土着信仰の神だっけ? その土地でしか信仰されてないやつだっけ? わっかんね。

 春雨の本に書いてたっけな……。えーっと、イミフ。何書いてんのこいつ。夕焼けの精霊呼び出して願いについて話して終わってるじゃん。その願いってのが、自分を殺そうとするやつを殺してほしいだかでしょ。恨まれるようなことやりすぎなんだよ。もしくは悲劇のヒロインぶってるからだろ。被害妄想つよつよのメンヘラは困るわ。

 景壱はいつの間にかタブレット端末を片付けて、私の描きかけのアナログイラストを見ていた。やっぱり気になっちゃうかぁ。最高傑作だから、目を引いちゃうよなぁ。

「これは、あなたのオリジナルキャラクター?」

「そう! 闇が深い美少年なんだけど、本編はハッピーエンドって決まってる。吸血鬼だから銀髪で、ストレートヘアのロングヘア」

「髪とヘアを何回言うつもりなん? ま……良いか。言いたいことは何となくわかった。銀髪と言うよりは、薄青髪に見えるんは俺の目が良過ぎるからということにしよう。人間とは見え方が異なるからな。で、こちらの子は関節が逆向いてるけど、そういう先天性奇形? 斬新な設定でウケそうやね。特に、手が左右逆になってるのが良い」

 そんな設定なわけないだろ! バカにしてんのか!

 出かけた言葉をグッと飲み込む。人間とは見え方が違うから、仕方ない。私のイラストのすごさがわかんない可哀想なやつなんだ。

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