第5話

 景壱は本を読んでるから、私はその隙にイベントの感想でも投稿しておくか。

 完売も出て、色んな人に会えて嬉しかったですやっぱりリアルなイベントの空気は良いですね。お疲れ様でした、と……。

 イベントタグをつけていたからかすぐにいいねがついた。誰これ知らないやつだ。と思ったら、右隣の人か。フォローしとこう。私の本買ってるし、お迎えした本についても投稿されていた。シェアして、いいねつけておく。そのうち感想が届くかな。

 私もお迎え報告するか。写真撮る前に景壱が読んでるけど、もう飽きたのか本を閉じていた。

「飽きたの?」

「いいや。読み終わった」

 良いことを思いついた。

 こいつが言う感想を、私が読んだことにして出せば、春雨さんの好感度が上がるはずだ。買ってその日のうちに夢中に読んだなら、嬉しいに決まってる。私なら嬉しい。

 気を良くして、うちの子イラスト貰えたらもっと良いけど、そこまでは無理か。とりあえず、私が今やるべきことは……。

「ねえ、その本の感想は?」

「よく調べたと思う。俺が知っていることが多いけれど、知らないこともあった。特に夕焼けの精霊の召喚法については詳細まで事細かに記されていて、筆者が実際に術を執り行ったように感じられる。夕焼けの精霊はここに記された有名な悪魔や邪神よりも召喚法が定かにされているものではないから、ここまで書けるのは執着があってこそ。そして、この中だと一番知名度が低いであろう夕焼けの精霊にページをこれだけ割いているのは、明らかな熱量を感じる。これなら試してみようと思う人間も多いはず」

「へえ」

 私が既に知っている召喚法ばかりでしたが、マイナーな夕焼けの精霊の召喚法を詳細に書いていてすごいなと思いました。よくこれだけ調べたなと思います。試してみたくなりました。あと、表紙絵が今回も綺麗ですね。

 これで良いか。春雨さん宛てにして、本の写真もつけて、イベントでお迎えした本のタグをつけて投稿!

 すぐに知らない人からいいねがついた。タグ巡回してんのか? 自分の本でもねぇのに反応すんなよカス!

「へぇ。俺の言ったことを自分のことのように投稿したんや?」

「別に良いでしょ。あんたはこの人と面識無いでしょうし、本の感想伝えないんだから、私が代わりに伝えてやってんの」

「なるほどな。だけれど、これやと印象は悪くなると思う。俺が言うならまだしも、あなたが言うなら、いわゆる上から目線のように見える。急に上から何かほざいていたら、相手も『ありがとうございます』しか言えないと思うんよな」

 何言ってんだかさっぱりわからん。感想貰えないよりも貰えるほうが良いんだから、これぐらいで十分だろ。私ならもっとここが良かったですとかこのキャラの行動が良かったですとか言ってほしいけどな。

 春雨さんからの感謝の言葉もシェアも来ない。まだ家に帰ってないのか? そういえばイベントアフターの写真を投稿してたっけな。BLで活動してる猫乃ねこのニクキュウさんと一緒って書いていた。私、いかつい角刈りの男が受けっての嫌いなんだよな。美少年ならまだしも、いかつい男受けを書いてて何が楽しいのかって思う。あと、男の尻は濡れないっつーの! 勝手に濡れるの怖すぎなんだけど! 病院行け! そんなことはさておき、私もアフターに誘ってくれたら良いじゃん!

「ところで、あなたの作品は?」

「え? 読むの?」

「俺はあなたの作品については知らない。性格、血液型、家族構成、その他は知っているけれど、あなたが生み出した作品については知らない」

「逆に聞くけど、何で性格とか血液型を知ってんの? それじゃあ言ってみて」

「性格からいこうか。あなたは、本当はとても優しい人だが、誤解されていると感じることも多い。他人の為に自分の利益を我慢する事もあるかもしれない。他人から好かれたい、称賛されたいと思っているにもかかわらず、自己を批判する傾向があるともいえる。自信がある時は大きく出るけれど、無い時はおとなしくしていることも多いんやないかな。そのうえ、あなたは独自の考えを持っている事を誇りに思い、根拠も無い他人の意見を聞き入れる事は無い。外向的・社交的で愛想が良い時もあるが、その一方で、内向的で用心深く遠慮がちな時もある。ここまでで何か間違いはある?」

「すごい! 完璧! さすが邪神様は見る目が違う」

「……俺は、邪神ではないんやけれど」

「え? この紙には邪神と書かれてるから邪神っしょ?」

「邪神の意味わかってて言うてる?」

「人々に災いを与える神でしょ? ほら、なんちゃら神話でよく出てくる」

「くくっ、あは、あっはっはっは……!」

 急に笑いだして何? こわっ。もしかしてこれが正気度チェックだとかいうやつか? だとしても、私は正気だ。だって、みんな突然笑いだされたら怖くなると思う。

 喉の奥の乾いたところから出ているような声で笑われているので、悪寒がする。さっきと同じだ。

「久しぶりに愉快なことで笑えた。良いね。気に入った。一応否定しておくが、俺は邪神ではない。雨は人間に恵みをもたらす。作物を育て、喉の渇きを潤す。どう? これでも邪神と言う?」

「あー、そっか。それなら災いじゃないし邪神じゃない」

「ククッ、意見を翻すのが早くて面白いな。そう。俺は、邪神ではない。五穀豊穣の神と思っていただいても、なんら間違いはない」

「そうだね。作物を育ててくれるもんね」

 紺碧色の瞳が細まる。眼底に潜む何かがこちらを凝視しているように見えて、背筋がピンッと張った。

 景壱の姿は、人間と変わりない。髪の色と瞳の色も、コスプレで使うものを使えば再現できそうな色味だ。服装もスチームパンクやクラシカルロリータ、ゴシックファッションでありそうだと思う。靴下留めを実際に使っている人を初めて見た。こういうキャラ、うちのフォロワーで好きそうな人いる。このデザインで描けば良いのでは?

「話の途中やったね。あなたの血液型はAB型。家族構成は、父親、母親、あなた。一人っ子」

「やるじゃん」

「個人情報は見えないところにしまっておいたほうが良い。それと、さっきの性格やけれど、インチキ占い師がよくやる手口で、誰にでも当てはまるように言えば良いだけ。あなたにも、あなた以外の人にも、この性格は当てはまる。あなたのフォロワーの中にも似たようなこと言える人おると思う」

「それなら、詐欺ってこと?」

「それは言い過ぎやね。詐欺の意味知ってる?」

「バカにしてんの? 人を騙すことでしょ」

「合ってるけれど間違いとも言える。人を騙して金銭や物品を奪ったり、損害を与えたりすることを詐欺と言う。俺はあなたに対して何もしていない」

 なにそれ、すっごい腹立つ!

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