第2話

 ついにこの日がやってきた! 久しぶりのオフでのイベント! リアルなイベント!

 頒布物は宅配搬入されているから、ラクチン。サークルチケットを見せて、先行入場して、設営だ。

 頒布物が多いから机に乗り切らない。お品書き一覧作ったから、これを置くだけでわかるだろ。見りゃだいたいわかるわかる!

 設営できたから、早速ブース撮影。

「設営完了しました。し-27でお待ちしてます。きれいなものたくさん置いてます」

 イベント公式タグも付けて投稿! 右隣のサークルが挨拶してきたから、挨拶を返した。お菓子までくれたけど、私、これ嫌いなやつだ。帰りに駅で捨てようかな。

 タイムラインでタグチェック。テキトーにシェアして拡散しておけば、向こうもしてくれるでしょ? マナーでしょ? 私の作品は絶対面白いからもっと広まるべき。

 左隣は共通フォロワーもいない人だ。設営に必死そうだし、挨拶必要無しと判断!

 開場のアナウンスが響く。マイクが少しハウリングして、頭にガンガン響いた。大扉から次々に一般参加者が入場してくる。これから6時間、久しぶりのリアルイベント楽しむぞー!

「こんにちはー! 月宮つきみや夜空よぞらさんですか?」

「は、はい! 私です!」

「お会いできて嬉しいです。フォロー頂いてる城野しろのです。これ、差し入れです」

「ありがとうございます!」

 共通フォロワーの多い城野さんが来た。よくイラストを投稿してる人だ。私もいいねするし、されたこともある。

「それでは、私、鮫島さめじまさんのスペースでお手伝いしているので、良かったら来てくださいね」

 は? 何それ? うちの作品を何も買わずに差し入れ渡しに来たの? しかも私が嫌いなお菓子だし。正直いらねぇ。あと、鮫島さんって誰? 私のフォロワーでもないが?

 私は差し入れ準備してなかったし、これを別の袋に入れて配ろうかな……。そのほうが捨てるよりもエコじゃね? さっき貰ったお隣の菓子と合わせたら、豪華に見えるし。

 一般参加者はお目当てのサークルから回るはずだし、私のところにもそろそろ来るかな……。

 タイムラインをチェックしていると、目の前に人影。お客さんか! と思ったら、左隣のサークルで購入していた。

「ミチル。お隣に挨拶した?」

「設営に必死でしてなかった!」

「はぁ……。すみません。挨拶遅れました。お隣にお邪魔します。2人でサークル活動しています。『レバニラ定食』です。こっちはイラスト担当の佐野さのミチル。私は文章担当の美谷島みやじまヒカリです。名刺と無配どうぞ」

「あ、ありがとうございます。私は個人で絵文両刀で活動している月宮夜空です」

 名刺と無配を受け取ったので、私も名刺を渡す。

 2人の名刺はキラキラの特殊紙に印刷されたもので、イラストとショートストーリーが入っていた。これ良いな。今の名刺が切れたら真似しようかな。

 何か話そうと思ったら、隣のサークルに人が来た。接客で忙しそうだ。

 私のほうがもっと綺麗なイラストも描くし、文章も書いてるってのに、人が来ない。イベント前通販でも新刊予約入らなかったし、わけわからん。

 右隣にも人が来ている。しかも全種類一冊ずつくださいという声が聞こえてきた。固定ファンがいると強いな。羨ましい。

 私はこの日のために原画も準備したってのに、まだ見る人がいない。そろそろ買いに来いよ、フォロワー!

「あ、月宮さん! お久しぶりです! 谷垣たにがきです!」

「谷垣さーん! お久しぶりです!」

 フォロワーの谷垣さんだ。いつも投稿にいいねをくれる。

 見本誌を手に取ってパラパラ流し読みしてるから、買うか? 買うよな? フォロワーだもんな?

「月宮さん、あの、この本……」

「はい、500円です!」

「あ、す、すみません! この本、隠しノンブルですか?」

「へ?」

「ページ番号埋まってますけど」

「し、仕様です!」

 うわぁ、ミスってた! 最悪! 何でイベント会場でそういうこと言ってくるかなぁ。お隣にも聞こえてるし、恥晒しなだけじゃん! やめてくれよ、まったく。

「あと、これ、グラッセは焼かないですよ……」

「はい?」

「グラッセは、煮る料理だから……えーっと……あはは」

 何それ。わざわざ私をバカにしに来たってこと? 苦笑いをして見本誌を置いて、谷垣さんは去って行った。腹立つ!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る