第20話

どのくらい眠っていただろうか。

存在があやふやになっていたのがだんだんはっきりしてきた。

目が覚めたら、目の前に女神がいた。

触れたいけど体が自分のものではないくらい重い。

口も動かない。見えているだけ。


「おはよう。シオン。」


記憶もあやふやだが、だんだん鮮明になってきた。分かる、彼女は。


「ル、ル、」


上手く発声出来ない。


「もう少し、寝てなさい。次、目が覚めた時は。」


僕は、心地の良い美声に酔いしれる中、意識を手放した。


ーーーーーーーーー


「どうでしたか?体調の方は。」


「まだ、意識、記憶ともに混濁があるみたい。しかも、硬直もあるみたいだし、もう少し様子見だね。ラーネ。任せるわ。」


「はい。完璧をさらに磨き上げますわ。」


「分かっているじゃない。」


私は、目的を達成するために歩き出した。


「マリ。みんなに連絡できる?」


「えぇ。それぞれに付いておりますので。」


「お願いするわ。」


マリは少しの沈黙と目を閉じると


「出来ました。」


”姉妹たちよ、我らが至宝は蘇った。予てからの計画を実行せよ。”


私は、それを言い終えるとあるところに出向いた。


「おひさしぶりです。」


私は、目の前の人物に語り掛けた。


「私は、この時をまっておりました。」


「久しぶりだね。ル、いえ、今はルナートと言うべきか。」


「はい。一つになり、全となりました。なので、分かります。あなたがすでに力が失われていることも。」


彼女は椅子からたちあがろうとした。


「すみません。そうではありませんね。どちらかというと、”継承した”ですね。」


「それで、間違えてないよ。というより、あの子は元気かい。」


私は、笑顔で返した。


「それは、どちらの意味だい?いや、いい。それで答えは聞けたものだよ。」


私は、つまらないと思いつつ、出された紅茶を楽しんだ。


「それで、ここに来た理由を聞かせてくれないか?」


私は、紅茶が入っているカップを置き座りなおした。


「これを差し上げますわ。」


私は、今時珍しい紙の封筒を渡した。


「中身も今見てください。」


しぶしぶと言った感じで開けた。

中身を見て彼女は勢いよく立ち上がり声を荒げた。


「これは!どういうことだ!」


「そのままの意味です。エリカ伯母上。この”国”は私たち姉妹の物です。」


彼女は、落胆したように椅子に堕ちた。


「これで、私たちは表舞台に出なければならなくなった。」


「そう、言わないでください。全ては、愛する”シオン”のためなのですから。」


そういうと、彼女の眼は混濁したと思ったら光を取り戻した。


「そうだ。あなたの娘はちゃんとシオンのお眼鏡にかないますよ。」


私は、扉を開け出ていくときに言った。


ーーーーーーーーーー

「マリ。次、行くわよ。」


「はい。こちらに用意しております。」


「ありがとう。」


マリからアタッシュケースを受け取り、次の目的地に向かった。


「さて、あなたは、これからどうなるのでしょうか?」


「分かった。やめてくれ。私は、降りる、だから。」


「いいえ。貴方には死ぬまでやってもらいますわよ。」


「なぁ。それじゃあ。えぇ。あなたの子供にも孫にも。」


その、男は絶望の表情をしていた。


「では、こちらが出資金になります。頑張ってくださいね。」


男はそれを受け取ると何処かに連絡をした。


私は、もう終わったとばかりに部屋を出た。


「マリ、疲れたわ。」


「お疲れ様です。」


私とマリは、車の中で話をした。


「そういえば、エリア母様は。」


「はい。先ほど、終わったので帰るとのことです。」


「時間がかかったわね。」


「えぇ。どうやら、アレスなる人物が反抗したそうです。それで、時間がかかったとのことです。」


「あぁ。彼ね。」


「そういえば、ルナとして因縁がありましたね。」


「もういいのよ。今になってしまえば、些細な事よ。」


私は、車内から魔光の街頭を見つめた。


「どうかされましたか?」


「もう、半年が経ったということが実感できなくて。」


そう、この計画が始動して半年が経った。それでも、まだ終わりはしない。それもそのはず、この計画は一生つづくのだから。


「シオン様はやっと歩けるまでなりましたわ。」


「本当!」


「そう、では。そろそろ。学園へ復学させないとね。」


私は、端末を取り出し、エリカ伯母上に連絡した。


ーーーーーーーーーーー

「ラーネぇさん。」


「どうしたのかしらシオン様。」


僕は、従姉のラーネ姉さんに面倒を見てもらっている。なぜなら


「碌に歩けもしない。そして、体も助けが無ければほとんど動かせない、自分にみんな尽くしてくれている。申し訳なくて。」


僕は、泣きそうになった。


それを、ラーネ姉さんが優しく抱いてくれた。


「大丈夫よ。あなたには、私たちにとって大切な存在。だから、みんなあなたに尽くしたいの。だから、ゆっくりでいいの。あなたは、目覚めたばかりなんだから。」


彼女の言葉は僕を眠りへと誘った。


「おやすみなさい。あなたは眠るのよ。」


ーーーーーーーー

「ルナート姉さん。」


「どうしたの、ラーネ。」


「はい。これは、直接話した方がよろしいかと思いまして。」


ラーネが、夜に私の部屋の扉を叩いた。


「それで、シオンに何かあったのか?」


「彼の情緒が若干不安定になっておりまして。」


「そうか。そろそろか。」


「はい。それと、昼間に報告した通り、ぎこちないですが歩くというところまでは来ています。それと、魔法に関してなのですが。」


「何か問題があったのか?」


「無意識に魔法を使っているみたいでして。」


「シオンの魔法って。」


「はい。支配の魔法で、彼自身気づかずに使って周りの物を動かしたり、心象を操っているようで、私とかはまだ彼の魔法が弱いので対抗できるのですが。」


「では、そろそろ。自然と魔法が使えるようになるかと。」


「彼は、私の魔法も一部使えるから、さらに当主としてふさわしくなりそうね。」


「はい。私たち第2世代の当主として素晴らしいですわ。」


ラーネはそのまま立ち上がり、一言挨拶をいい部屋を出ていった。


私は、少し悩んでいた。このままうまくいくのだろうかと。そのまま床に就いた。



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